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ビギナーが憧れるスナックの常連客…ってどんな人たちなの?――酔いどれスナック珍怪記

 男が帰る“もう一つの家”がスナックであるならば、常連であればあるほど居心地が良くなると思うのは自明の話。特に初心にこそその思いは強い。扉越しに聞こえてくるダミ声おやじの昭和歌謡にビクビクしながら入店したその日から、「いつかは俺も」と憧憬の念で眺めていた常連客とはどんな人たちなのか。「イケてる常連客」の定義を、筆者独自の視点で見てみよう。

第七夜 常連という秤(はかり)

 スナックに飲みにくる人々は、「常連」になりたい人が多い。  人の出入りが多いけれど他者との接点の少ないラーメン屋や牛丼屋では「まいど!」なんて言われると少し恥ずかしくなってしまったりするのに、スナックでは「いつもありがとう」って言われたい。店という共感性と社会性を持った一つのコミュニティの中では認識されたい。そこには、閉鎖空間でようやく馴染みの一員として認められる誇らしさとか、「俺はこの店で顔が効くんだぞ」という他の新規客へのマウントとか様々な思いがあるのだろう。職場や家以外で自分を認知してくれる拠り所を求めている。だから、スナックのお客というのは得てして自己顕示欲と承認欲求の強い人間が多い。  もちろん、純粋に酒が好きとか、ただただアル中とか、そういうお客も少なからずいるのだろうが、「一人で静かに飲みたいだけ」とのたまう人だって、本当に一人で静かに飲みたい場合はスナックという場を選ばないはずだし、究極家で一人で飲んでいるはずである。 「あそこに座ってる人、いつもいる常連さんですよね?」「その隣にいる人は、駅前の○○って店の常連さんですよ」。お客同士で語られる「常連」にはいつもちょっとした憧憬の思いが表れている。  わたしの働いているスナックのように三十ウン年も営業していると、一言に常連といっても色々な種類がある。最近よく来る常連、来始めてそろそろ十年ぐらいになる常連、昔は毎日来ていたけど今は半年に一度くらいしか顔を見なくなった常連、週に一度くらいの頻度で三十ウン年欠かさず通っている常連。皆それぞれによくわからないプライドを持っている。  店は、現在の場所に移転して約十年近くなる。久しぶりに顔を見せた古くからのお客は、店内を見渡して、「あの人最近のひと?」などと聞いたりする。その響きには、「俺は移転前から知っているんだぞ」というニュアンスが含まれている。  そういう時、マスターは「こちらは最近すごくよく来てくれて、お世話になっている〇〇さん」、「こちらは長い付き合いの〇〇さん。昔は毎日朝まで一緒にバカ騒ぎしたよね」などと互いを紹介し、両者の常連心を上手く擽っている。面倒くさい人たちだなと思うが面白くもある。
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週に一回以上三十ウン年間通っている客、田中
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