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安倍退陣、“言論バブル”だった左右陣営はどう変わる?/古谷経衡

安倍のレガシーにすがる左右両陣営

 かくして左右のメディア・論者は、この600万~750万人に対して安倍をもちあげ、あるいは叩くことでビジネスをしてきたということになる。そんな彼らの、安倍退陣後の身の振り方はどうなるのだろうか。 「まったく影響はないと思いますよ。今後も安倍政権の存在は菅政権の背後にあり続けるのです。菅が新総裁になり、菅政権が誕生しましたが、右派系メディアにとっては菅のやることなすことすべてが『安倍のレガシー』。菅を育てたのは安倍なんだから、という理屈です。株が上がれば安倍のレガシー、オリンピックを強行開催できたら安倍のレガシー、消費税据え置きでも安倍のレガシーと言えるのです。  逆にもしオリンピックを断念したらそれはそれで菅の英断であり、その背後にはやはり安倍があるという訳で、なにをやっても安倍と接続して考える。7年8か月も続いた第二次安倍政権の『催眠術』が、そんなに簡単に解かれることはありません」  しかも、安倍官邸とは距離を置き続けた石破茂は、‘18年の総裁選で安倍と一騎打ちとなった前後より、保守界隈やネット右翼から強い批判を浴び、今回の総裁選でも3位と振るわなかったことに大はしゃぎしている。「安倍の敵であり売国奴である石破茂」という新たな仮想敵を創り出すことに成功した保守系メディアは、鼻息を荒くしているのだ。  かつて’90年代の保守論壇では、河野洋平や野中広務といった自民党内のハト派、中国・韓国寄りとされた政治家や経世会系、宏池会系を叩く誌面作りが王道パターンだったが、そこにまた回帰するのではないかと古谷氏は見ている。 「安倍の扱いについては、左派も同様です。菅政権下でも、反安倍の主張は色濃く残るでしょう。菅は『安倍政権の路線を引き継ぐ』と発言して閣僚人事も骨格部分は留任となっています。左派にとって菅は安倍の正統な後継者であり、菅政権は『安倍政権の亜種』あるいは『清和会の付属品』で、『菅のやっていることは安倍のカーボンコピーだ』と叩けるわけです。 かつて田中角栄と中曽根康弘の影響関係から『田中曽根内閣』などと揶揄されましたが、今回も『安倍菅(アベスガ)内閣』と呼び、安倍政権の延長線上で批判を行うのは確実です。もちろん、中曽根は官房長官に政治信条の違う後藤田正晴を入れるバランス感覚がありましたので、菅内閣と比較するのは失礼ですが(笑)」

’22年の参院選がカギを握る!?

 そう、あくまで菅ではなく、安倍と菅のセットなのだ。左右の両陣営とも、手を変え品を変え、安倍の残り香を追いながら論陣を張っていくことになりそうである。安倍路線を引き継ぐ菅内閣が続く限り、両者のスタンスに変わりはない。変化が起きるタイミングは、’22年の参議院選挙だろうと古谷氏は最後に言う。 「もちろん目下の注目は衆院解散ですが、野党が弱い上、小選挙区の都合上、自公で過半数割れという事は起きないでしょう。菅内閣はこれで民意から信任を得たという事でいったんは乗り切るでしょう。 しかし問題は参議院です。’16年の参議院選挙で自民党は改選50議席を56議席に増やしました。連立を組む公明党も、改選9議席から14議席に増やしています。どう見てもこれは勝ちすぎの結果ですので、当時当選した議員が改選を迎える’22年の選挙では自公で減る公算が強い。 参議院は選挙制度上、勝ちづらく負けづらい性質があり、中間選挙的意味合いがある。しかし万が一大きく減れば自民党からはすぐ『菅おろし』が起こる可能性が高い。参議院で負けると大体政権はコケます。それまでの間、左右論壇は菅政権の一挙手一投足に安倍の影を見ながら、今までと同じことを語り続けていくのでしょう」  最後に菅政権が崩壊後の、ポスト菅についても聞いてみた。 「どこかの保守系の雑誌を出している出版社から、『第三次安倍政権待望論』みたいタイトルの本が出ると予言します。帯には『不死鳥のごとく蘇る安倍晋三』とか打つでしょうね。多分もう準備しているんじゃないでしょうか。実に楽しみです」  ’22年の夏が、今から楽しみである。 <取材・構成/沼澤典史・野中ツトム(清談社)>
(ふるやつねひら)1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数
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