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安倍退陣、“言論バブル”だった左右陣営はどう変わる?/古谷経衡

安倍元総理

首相官邸Instagramより

安倍応援団が支えた政権

 8月28日に辞任を表明した安倍晋三首相。2012年12月の発足以来、憲政史上で最長となった7年8か月に及ぶ政権が幕を閉じ、9月14日に菅義偉新総裁が誕生した。この長期政権時に存在感を増したのが、安倍政権を援護射撃する保守系メディアや知識人から構成される、いわゆる「安倍応援団」である。  そしてその周りを「ネトウヨ」層が固めるという構図だ。彼らは安倍応援団の主張を受け売りしつつ、さらに先鋭化させた右翼思想やヘイト発言を叫ぶのが特徴である。  一方で、安倍応援団&ネトウヨという右のパンチに対抗するように、左からのパンチも勢いを増した。断固として反安倍を唱えるリベラル系勢力が現れ、右陣営は彼らを「パヨク」「アベガー」と揶揄した。そんな両者の泥仕合がネット上でたびたび散見されるようになったのが、安倍政権末期の言論状況だった。  ある意味、右も左も、安倍政権という安定の大樹に寄りかかっていたとも言えるだろう。ならば、新政権誕生後に、彼らはどこへ漂流するのだろうか。  そこで、安倍なき時代の言論の行方について、古谷経衡氏に聞いた。保守系メディアの内幕や知識人の実態を暴露した小説『愛国商売』(小学館)が好評発売中の評論家である。彼は、かつて保守系メディアへの寄稿や出演で知られ、一時はネトウヨ界の麒麟児ともてはやされた人物。だが現在は袂を分かち、冷徹な視点で“古巣”を眺め、かつての論敵である左を分析している。古谷氏はまず安倍応援団と安倍政権の関係性をこう解説した。 「安倍応援団と呼ばれる言論人は、作家の百田尚樹やジャーナリストの有本香、経済評論家の上念司、米国弁護士のケント・ギルバートなど、DHCが運営するYouTubeチャンネル『虎ノ門ニュース』に出演している方々。また保守系雑誌『正論』(産業経済新聞社)や『月刊WiLL』(ワック・マガジンズ)、『月刊Hanada』(飛鳥新社)に寄稿している面々が挙げられます。 政権発足の1年後の’13年12月に安倍さんは靖国神社に参拝していますが、これによって保守陣営は『安倍首相は我々の味方である』と確信し、徹頭徹尾サポートすることを決めたのです」

人気のある保守系人脈を活用

 特に安倍応援団と政権との距離感が変わったのは、’15年以降のことだという。 「安倍はこの頃から保守系やネット右翼を意識した発言や人事を強めていきました。野党議員の国会質問中に『日教組! 日教組どうすんだ!』などとヤジってみたり、ネトウヨ層に人気のあった次世代の党党首であった平沼赳夫を自民党に復党させたり……。’16年には保守界隈でアイドル的な人気のあった稲田朋美を防衛大臣として入閣させていますね。日本会議系の集会にも、憲法改正を訴えるビデオメッセージを送っています。 ’16年参院選挙では保守界隈で圧倒的な人気を誇る青山繁晴が自民比例2位で当選。’17年の衆院選挙では後に『LGBTには生産性がない』論文で大問題になったネット右翼の代表論客、杉田水脈を公認して当選させています」
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ネトウヨ層を意識した安倍政権
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(ふるやつねひら)1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数

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