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マクドナルド改革の“唯一の失敗”…再建の立役者がいま明かす

絶対に頭を下げなかった記者会見

 そんな原田氏を襲った最大の危機は、2007年11月に起きました。マクドナルドの店舗が賞味期限切れの野菜を使ったサラダを販売していることが発覚したのです。 原田泳幸 馬渕磨理子原田:私はすぐに該当店舗のフランチャイズ契約を破棄し、明朝6時までに直営店に変えることを指示し、実行させました。それから早朝にプレスリリースを出し、緊急記者会見。この時の記者会見は、まるで犯人扱いです。ただ、テレビクルーが150人ほどいる中で、私は絶対に頭を下げなかった。ネクタイも“赤色”を付けました。 馬渕:謝罪会見であれば、赤色のネクタイはあり得ないですね。 原田:頭を下げたら、その映像が全国に流れます。それは、全国のマクドナルドの店舗の売上が下がることになります。記者のどんな厳しい質問にも淡々と答えました。「これから1週間、同時刻同場所で、原因究明および対策を報告するため、毎日記者会見を行います。いらしてください」と言いました。実はこの時、マクドナルドの業績は下がらなかったんです。 馬渕:こうした危機管理の際のポイントはなんでしょうか。 原田:謝罪は危機管理の1つの方法に過ぎません。危機管理というのは、つまり業績を守ることなんですよ。その手段を履き違え、謝罪することが目的になって企業ブランドを毀損しすぎることは、よくありますが、それは違います。 馬渕:なるほど。 原田泳幸 馬渕磨理子原田:企業ブランドを大毀損するのは3つです。「トップが裸の王様」「隠蔽しようとする」「アクションが遅い」。この三つで信頼を失う。ただ謝罪すればいいかっていうとそうじゃないんです。 馬渕:だから赤いネクタイだったんですね。 原田:何度も言いますが、業績を守ることが全てのステークホルダーの価値を守る、唯一の手段なのです。

唯一の失敗。今だから話せる内容ですね

 原田氏が就任した当時、全店売上高(直営店舗とフランチャイズ店舗の合計売上高)が約3950億円だったマクドナルドは、2011年には5400億円まで上昇。その売り上げの成長額は約1450億。これは当時の吉野家全体の売り上げの約2倍であることから、かなりの規模であることがわかります。  しかし、2015年に原田氏はCEOを退任します。いったい何があったのでしょうか。 原田泳幸 馬渕磨理子原田:2013年にベネッセとソニーの社外取締役になりました。そのときに、そろそろ後継者にバトンタッチしなければいけないと思っていました。 馬渕:すでに引き際を考えられていたんですね。 原田:グローバル企業というのは、いつまでも1人でやるのではなく、後継者にバトンタッチする必要があります。しかし、日本人では私の後継者はなかなかいなかった。異文化を知り、リーダーシップを発揮し、外国人を動かす。これは並大抵ではできないです。 馬渕:後継者が見つからなかったんですね。 原田:はい。結果、私がいる以上は、日本人の後継者は育たないと感じたのです。今までトップダウンでやってきた私自身が一歩退くことが、不可欠だと感じていました。 馬渕:退きたいけど、退けない…。 原田:ちょうどそのときに、本社が外国人をCOOに就任させるように言ってきたのです。私は、就任には反対していましたが、本社から押し切られた形となりました。 原田泳幸 馬渕磨理子馬渕:そんな裏話が。 原田:彼が、日本で成功することはないだろうと懸念があったので、COOの就任発表をしなかったのです。これが私の唯一の失敗です。今だから話せる内容ですね。 馬渕:そのCOOはどんなことを行ったのですか 原田:彼がやったのは、「60秒キャンペーン」「カウンターメニューの撤廃」これらは全部失敗に終わり、売り上げが下がったことで、私の退任に繋がったと報道されてしまった。私はCOOを解任し、私も退任する。そういう経緯です。 馬渕:今だから話せる真相ですね。 原田:今日は真実をすべて話そうとこの場にいます。業績不振で退任を決意したわけではない。その事実を今日はお話してよかったです。  2015年の退任に至るまで、さまざまな危機を乗り越えた結果のCEO退任――。その真相に触れられた前編に続き、後編では現在のアジアンカフェ「ゴンチャ」のさらなる展開、タピオカブームは続くのかなどについて詳しく深堀りします。 【原田泳幸氏(はらだ・えいこう)】 長崎県佐世保市出身。1972年、東海大学工学部卒業後、日本ナショナル金銭登録機(現・日本NCR)入社。横河・ヒューレット・パッカード、シュルンベルジェグループを経て、1990年アップルコンピュータに入社。1997年より同社代表取締役社長兼米国アップルコンピュータ副社長。2004年より日本マクドナルドホールディングス代表取締役会長兼社長兼CEO、2014年にベネッセホールディングス代表取締役会長兼社長、2013年~2019年ソニー社外取締役。2019年より台湾発のティー専門店「ゴンチャ(Gong cha)」を運営するゴンチャジャパンの会長兼社長兼最高経営責任者(CEO)を務める。 <聞き手・構成/馬渕磨理子 撮影/山川修一>
経済アナリスト/一般社団法人 日本金融経済研究所・代表理事。(株)フィスコのシニアアナリストとして日本株の個別銘柄を各メディアで執筆。また、ベンチャー企業の(株)日本クラウドキャピタルでベンチャー業界のアナリスト業務を担う。著書『5万円からでも始められる 黒字転換2倍株で勝つ投資術』Twitter@marikomabuchi
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