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安倍元首相は二度の消費増税に屈した以外、8年で一体何をしたのか/倉山満

安倍首相は二度の消費増税に屈し、官僚機構からしたら、強すぎず、弱すぎず、ほどほどの首相であった

 私は諸悪の根源である白川を討伐する政権を渇望していた。安倍は政権返り咲きの前から、白川との対決姿勢を鮮明にしていた。だから私は積極的に支持した。  首相となった安倍は、聖域と化していた日銀に切り込んだ。そして白川から辞表を取り上げ、意中の人物である黒田東彦と岩田規久男を正副総裁に押し込む。いわゆるリフレ派と言われる岩田の理論を黒田が実行、「黒田バズーカ」と言われる金融緩和は、やがて「アベノミクス」と言われる景気回復をもたらした。景気回復の波に乗り、安倍内閣は選挙で連戦連勝を続けた。  ところが、強敵が現れた。時の財務事務次官木下康司である。財務事務次官とは官僚機構の頂点に位置する。木下は「消費税を8%に上げてもらう」と宣言した。デフレ脱却の前に消費税を増税などしたら、景気回復の急ブレーキだ。もちろんそれが狙いで、強すぎる総理大臣など官僚機構のコントロールが効かないので掣肘しなければならない。  木下の号令の前に、自民党の9割、公明党の全部、当時の野党第一党民主党の幹部全員、財界三団体、労働組合、主要マスコミがこぞって、「消費増税」に賛成した。この圧力に安倍首相は屈服。2013年10月1日18時、安倍首相は生命線であるアベノミクスに自ら引導を渡す、消費増税を宣言した。  官僚ら既得権益層からしたら、怖くない総理である。何年やってもらっても結構。強すぎず、弱すぎず、ほどほどの首相である。

弱すぎる野党に助けられて、選挙は連戦連勝

 私は2013年10月1日に、積極支持を取り下げた。だが、他に代わる人はなく、挽回の余地があると考え、積極不支持ではなく消極支持の立場であった。  その後は実に中途半端な政権と化した。消費増税8%が施行されてから、案の定、景気は悪化。日銀がさらなる金融緩和を行い、10%への増税を延期したので事なきを得た。金融緩和の威力により、なんとか8%増税の悪影響を食い止めた。また、10%再増税を延期したのも大きかった。結果、その後の6年間で「緩やかな景気回復」が続いた。  その間、弱すぎる野党に助けられて、選挙は連戦連勝。だが、歴史に残る業績は何もない。アメリカ大統領がオバマだろうがトランプだろうが、友好関係は築いた。だが、トランプが申し出た「自主防衛」は自ら断った。北朝鮮拉致問題はまったく進展せず、北方領土など交渉をすればするほど事態は悪化した。あげくに、習近平を国賓で訪日させようとしたほどだ。結局、安倍外交など、すべての周辺諸国の靴の裏を舐めていただけだった。  そうした安倍を御用言論人は甘やかし続けた。確かに「反安倍」のリベラル系言論人は惨かった。彼ら彼女らこそ、安倍長期政権最大の立役者だろう。安倍御用言論人は「安倍さんの悪口を言う奴の悪口を言うことが保守」とばかりに、醜い言論を繰り広げた。私は連中に、吐き気を抑えて我慢していた。  そして2019年7月の参議院選挙で増税を公約。ここで私は積極的不支持に転じた。もはや消極的でも支持する理由がない。  2019年10月1日。消費税は10%に上がった。景気が緩やかに悪化し始めたところに、コロナ禍である。その後の醜態は記憶に新しい。  悲劇を繰り返したくなければ、歴史に学ぶしかない。
1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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