旅するUber Eats配達員の自転車が故障。修理不可能、リタイアの危機
僕は普段、日雇い派遣などの仕事で稼ぎつつ、時間を見つけてはタイなどの東南アジアを中心に旅してきた。この状況では海外旅行には行けそうにないが、日本国内ならば比較的自由に動けるようになってきている。旅がしたい。でも、社会の底辺で生きる僕にはお金がない。そこで「Uber Eats」の配達で稼ぎながら国内を自転車で旅するという方法をとることにしたのである。
旅で出て83日目、僕は瀬戸内海に位置する大三島にいた。前日に引き続いてしまなみ海道を渡り、松山に向かう。ここからの距離は約73キロである。
大三島のゲストハウスを出発して海沿いのサイクリングロードを走った。朝日を受けて煌く海面に穏やかな波の音。背中のバッグは相変わらず重かったが、この景色の中でならいつまでもずっと走れそうな気がした。
トラブルが発生したのはしまなみ海道の最後の島、大島の中央を貫く道を走っていたときのことだった。
ギギギギ、ガシャン!
急に自転車から甲高い金属音が鳴った。慌ててサドルから下りて見てみると、後輪の変速機がぐにゃりと曲がっている。弛んでいた変速機のワイヤーがチェーンに絡まってこうなってしまったようである。
もうペダルを漕ぐことはできない。ふうッとため息をついて途方に暮れた。とりあえず、四国に繋がる橋の袂にある道の駅まで自転車を押して歩いた。そこで今治名物の焼豚玉子飯を食べながらこれからどうすればいいのか考えた。
ここまで壊れてしまったらおそらく修理は不可能だろう。もし修理できるとしてもその料金はかなり高額になるだろうし、僕にはそんな金銭的余裕などなかった。では、いったいどうすればいいか。リタイアするしかないだろうか……。
とにかく自転車屋に持っていってみることにした。そこからまた自転車を押して橋を渡り、四国に上陸。今治の街中に入って自転車屋はすぐに見つかった。年季の入った古びた店である。そこの店主のおじいちゃんに訊いた。
「この自転車直りますか?」
「無理だね。これはもう廃車にしたほうがいいよ」
「ですよねえ。じゃあ、ここで処分お願いできますか」
「処分代2000円ね」
これでこの旅も終わりか……。
突然のリタイアの危機
自転車は修理不可能
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バイオレンスものや歴史ものの小説を書いてます。詳しくはTwitterのアカウント@kobayashiteijiで。趣味でYouTuberもやってます。YouTubeチャンネル「ていじの世界散歩」。100均グッズ研究家。
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