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ストーカーも変質者も空想の世界の出来事ではない/カリスマ男の娘・大島薫

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男の見た目だった時代の後悔

 どうしてこの漫画を描こうとしたかというと、なにも男叩きがしたいわけではない。この4コマ目の男性の発言が、過去の僕自身をモデルにしているからだ。つまり、自身への後悔と反省を込めた作品といえる。  まだ男性の見た目で男性としてしか生きていなかった時期、突然半同棲している彼女が「駅からの帰り道、ずっとつけてくる男の人がいる」と僕に相談したのだ。ストーカーなんてものはテレビの中だけでの出来事のように思っていた僕は、あっさりとこの4コマ目の男性のいうような発言を彼女にしてしまった。  いま思えば、勇気を出して相談した彼女に対して、とても残酷な一言を投げかけてしまったと思う。しかし、実際のところ、僕はこの3コマのような出来事は、女性の格好になるまで体験したことがなかった。  女性の見た目になってからは、ホテルに連れ込もうとする男性と、すれ違いざまに痴漢をしてくる男性には遭遇している。では、1コマ目は空想なのかといわれると、そうでもない。  そこで挙げたいのが、小学生のときの話だ。そのとき僕は、もちろん普通の男児だったので、学校からの帰り道は友だちと公園で虫取りをしたり、缶蹴りをしたりして一般的な過ごし方をしていた。  ある日のHRで学校の先生がこんなことを言い出したのだ。 「今日のプールの時間、フェンス越しに女子の水着を撮影している男性がいました。声をかけたら逃げてしまったので、女子は気をつけるように」  そんなことが告げられた途端、教室が女子の声でザワザワし始めた。内容はこんなもの。 「そういえばさー、○○屋の角曲がったとこに、前見せてくる人おったよね」 「あー、そういえば私も声かけられたことある」  と、口々に変質者の目撃談が挙がっていく。僕はそれを見ながら子どもながらに、「えー!僕が学校帰りに遊んだりしてる間に、女子はそんなことになっていたのか」と思った記憶がある。

「見たことないから」で否定する男たち

 そして、数十年後、僕がこうして女性の見た目になったことで、痴漢や強姦紛いの男性に出逢うたび、この話を思い出すのだ。 「女性は子どものころから、ずーっとこんな危険と隣り合わせで生きてきたのか」と。  もちろん運良くこういったものと関わらずに生きてこられた女性も、もちろん存在はするだろう。だが、けっしてこういった被害は珍しいことではない。  しかし、僕がそうだったように、男性の多くはストーカーも変質者もどこか遠いものに思えている。見えていないものの存在を疑う人はいるだろう。幽霊を見たことがない人が、幽霊を否定するのと同じだ。  もしかすると、幽霊程度の話ならテレビタックル的議論のネタとして楽しめたりするかもしれないが、性被害を「見たことがないからない」と否定するのは、受け取り側の傷付き方が違ってくる。  僕も見てきたたくさんの変質者や危険な人物について話すと、「そんな人いないでしょ」という反応をいくつもされてきた。される側になってようやく理解するのもどうなのかという話だが、やっぱりガクッとくるものだ。その人の「そんな人いないでしょ」で、僕の負った傷やトラウマもなかったことになればいいのだが、そんなことにはならない。  そういった想いを込めて、架空のキャラクターを使い、こういった現状があると描いてみた。  ツイート後は女性の多くから様々な反応をもらった。「私の夫も私のストーカー被害を信じてくれませんでした」なんて、まさに僕がやってしまったことと同じことをされたという女性もいて、自責の念で胸が苦しくなった。とはいえ、一番辛いのは当事者だろう。  僕が犯した過去の過ちを繰り返す人はできるだけ少なくなって欲しい。もし、これを読んでいるあなたが男性で、いつかパートナーや親しい女性から「こんな被害がある・こんな被害があった」と報告されたときには、「そんなことある? ないない」といった反応ではなく、「そういうこともあるかも」と思って真剣に聞いてあげて欲しい。直接的な解決ができなくとも、信じてもらい、痛みを理解してもらえるだけでも、被害者の傷はいくらか癒えるものだ。  あなたまでもが、女性にとって「信頼できない男性」の一人になってしまわぬよう、願っている。
1989年6月7日生まれ。男性でありながらAV女優として、大手AVメーカーKMPにて初の専属女優契約を結ぶ2015年にAV女優を引退し、現在は作家活動を行っている。ツイッター@OshimaKaoru
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