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死亡説が流れたアントニオ猪木は、未だ夢を持ち続け、なりふり構わず生きている

文/椎名基樹

死亡説を否定する「リハビリ動画」が逆効果に

 3月1日にアントニオ猪木の死亡説が流れた。発信源は定かではないが、3月1日の夕方にはプロレス関係者、マスコミ、政界などに、広くその噂は広まっていた。直弟子の藤波辰爾は、噂を聞いてすぐに、猪木本人に直接電話をかけ、その日のうちに無事を確認したという。  噂を否定するためにアントニオ猪木は、自身のYouTubeチャンネルで、リハビリの模様の動画を公開した。私は死亡説など知らずに、3月1日の夜にTwitterから流れてきたその「リハビリ動画」を見た。そのやつれ果てた姿に驚き戦慄した。猪木の寿命が尽きようとしている。私はそんなふうに思った。死亡説を否定するためのその動画は逆に私のような一般人の間に、その噂を広める結果になってしまったようだ。  そのためか、さらにその1週間後、猪木は動画を投稿した。病院のベッドに横たわったまま、カメラに向かってメッセージを発信した。リクライニング機能で体を起こしているものの、枕から頭を離せず身体の自由は、思うようにはならないようだ。顔色も非常に悪い。しかし、10分間にわたりとうとうと話し続けた。開口一番に語った事は、ナースコールをしても看護師がすぐに駆けつけてくれないと言う愚痴(笑)。そんな人間臭さがいかにもアントニオ猪木らしくて、思わず笑ってしまった。また、愚痴が出るほど元気になったことにひとまず安心した。

欲望や、生への執着を隠すことない猪木

 その2週間後の動画では、病室でステーキを食べる猪木を見ることができた。ひと口で食べるそのステーキの一切れがでかい! さすがプロレスラーだ。きっといいお肉に違いない(笑)。その食事映像の後に、前回同様、ベッドに横たわりながらのメッセージがあったのだが、そこで猪木は突然しみじみと「また恋もしたいですねえ」と言い出した。これにはさすがにあっけにとられた。死亡説を払拭するための動画で、4度の結婚をした78歳の男が語る、恋愛への憧憬。  この一連の動画を見て、私は非常に元気が出た。有名人や英雄のほとんどは、人生の晩年で衰弱してしまった自分の姿を世間にさらしたくないと考えると思う。しかし、猪木はそうはしなかった。それどころかよぼよぼの姿で、現世の欲望や、生への執着を隠すことなく発信した。そのほうが猪木らしい。無様だろうがなんだろうが生きることに必死な姿を見て、元気が出ないはずがない。しかもとびきりお茶目ときている。  現在、アントニオ猪木は心臓の難病を患っていて、その薬代は本人曰く「びっくりしちゃうような値段」だと言う。その薬代を稼ぐために現在働いているともコメントしていて、YouTubeの動画配信もその一部なのかもしれない。猪木は未だ夢を持ち続け、そのためになりふり構わず生きている。
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ダイヤモンド・プリンセス号に乗り込もうとしていた
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1968年生まれ。構成作家。『電気グルーヴのオールナイトニッポン』をはじめ『ピエール瀧のしょんないTV』などを担当。週刊SPA!にて読者投稿コーナー『バカはサイレンで泣く』、KAMINOGEにて『自己投影観戦記~できれば強くなりたかった~』を連載中。ツイッター @mo_shiina

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