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反対の声を無視して五輪に突き進む愚かな民主国家

オリンピック・パラリンピックの「ライブサイト」会場となる代々木公園の入り口には、団体利用、長時間利用自粛を呼びかける看板と共にパブリックビューイング会場設置工事の案内が並ぶ。都は、当初よりも会場の規模を縮小することを明らかにしたが、批判が高まっている
鈴木涼美

撮影/鈴木涼美

輝きは飾りじゃないガラスの50年/鈴木涼美

 同い年の女友達6人が参加するLINEグループの話題を先週からBTSが席巻している。  重度の信者を一人出してから、一人また一人と感染しているようで、彼女たちに同グループの魅力を聞いてみるとみんなが「視座が高い」と言う。所属メンバーが国連本部でスピーチをするなど、確かに視座の高そうな彼らは、自分自身を愛することの重要性を歌い上げ、世界の若者の疲れた心を癒やしているらしい。  ちなみにアラフォーになって男の視座に惚れだした彼女たちは、アラサーになったころ、「一生懸命でプロ意識が高い」と言ってジャニーズの若手グループに熱を上げていた。  LA生まれのジャニー喜多川氏は、当時住んでいた「ワシントンハイツ」の敷地内で、日本の少年を集めて野球を教えていた。参加していた4人の少年はその後、ミュージカルに魅せられて、芸能の道を歩むことになる。これが、’65年に紅白歌合戦にも出場した元祖「ジャニーズ」である。  かつて帝国陸軍の練兵場だった「ワシントンハイツ」は、山の手空襲で焼け野原となった後に造られた家族住宅などを擁する米軍施設で、’64年の東京オリンピックを機に日本に返還されるまで、敗戦後の日本の人々が立ち入ることのできない、米国的な最新の生活が営まれる場所だった。  選手村として使用された後、’67年に「代々木公園」として改めて開園。コロナ前は野外ステージや広場で多くのイベントが開かれ、人を集めていた。  そんなジャニーズ発祥の地と言える場所に現在、不穏な空気が立ち込めている。都が五輪のパブリックビューイング会場設営のために樹木の剪定を始めたからだ。実際は根こそぎ木がなくなるわけでもないようだが、なまじ五輪中止を求める声が日に日に高まっているだけに、ネットでは剪定の反対運動が広がった。  緊急事態宣言が続く中、公園入り口には現在も「公園利用の際は短時間(2時間以内)少人数(5名以下)ご協力ください」と大きな看板が掲げられており、宴会や団体利用の自粛が呼びかけられている。その公園で巨大スクリーンや飲食店などのイベント会場の整備が始まれば、公園利用者たちも渋い顔をする。  明治神宮に隣接するこの土地がしかし、市民の誰もが楽しめるような場所に生まれ変わったのはたかだか50年と少し前である。この50年、私たちが私たちのもののように思っていたものは、実は虚構だったようにも思える。民主主義も、公園も、自由も。  いま私たちが住むのは、国民の多くが中止や再延期を求め、スポンサーでもある新聞に反対の社説が載るような五輪に突き進み、ぼったくり男爵へのお・も・て・な・しに追われる国である。  50年間余りの平和と自由を幻としてなかったことにするのか、あるいはゆっくりであるが確かな敗戦後の歩みとするのか、国や都のリーダーたちは決断を迫られるが、アイドルたちにもある「視座」や「プロ意識」が彼らにあるのかは疑問だ。 ※週刊SPA!6月1日発売号より’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

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