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「赤木ファイル」の存在をようやく認めた国の傲慢

森友学園への国有地売却を巡る財務省の決裁文書改ざん問題で、自殺した近畿財務局職員・赤木俊夫さん(当時54歳)が改ざんの経緯をまとめて職場に残したファイルの存在を国が初めて認めた。赤木さんの妻・雅子さんが国側に損害賠償を求めた訴訟の第4回口頭弁論(6月23日)で開示される。
赤木ファイル

記者会見する赤木雅子さんの代理人弁護士 写真/時事通信社

「おめえだよ」/鈴木涼美

 自分が浮気して、どうやら恋人が証拠を既に握っているっぽい状況で遠回しに詰問されているとき、大体人は「関係ないだろ」「覚えていない」と答える。彼氏がいるであろうラウンジ嬢に恋人がいるかどうか聞くと大体「なんでー?」「付き合うとかってよくわかんない」と返ってくる。  嘘をつくと後々まずいが、真実を述べると大変な不都合がある人の受け答えはなぞったように似ている。お役所言葉にしてみると「お答えすることを差し控える」とか「調査中」とかになるし、政治家の答弁では「コメントを差し控える」とか「認識していない」とかになる。  森友学園公文書改ざん問題で、国が「回答の要を認めない」「探索中」としていた資料、通称「赤木ファイル」についてその存在を認めることが明らかになった。  朝日新聞の第一報の「(ファイルの)存在を、国が認める方針を固めたことが関係者への取材でわかった」という文言は、新聞の定型文に則ってはいるが、この場合大いに皮肉にもなっている。国はこれまでファイルがあるともないとも言っておらず、それはつまり「方針」によってはあることにもないことにもできたということだ。これまでの報道で当然あるとされていた資料を、ないことにもできる権力が国の中枢にあることは実に怖い。  森友問題、厚労省の統計不正、桜を見る会の招待者名簿などに加え、学校によるいじめの隠蔽なども数えれば、この国の目に見えている歴史にはあまりに多くの空白があり、空白に自由に絵を描ける人が「上級」の世界にはいるのだろう。 「関係ないだろ」「わかんない」と時間を引き延ばし、報道の熱を冷まし、いつの間にか当時の首相は体調不良で退いていて、近畿財務局職員の自死から3年がたつ。3年かけて空白に描く絵の構想でも練っていたのだろうか。公文書が改ざんされる社会は怖いし、その責任が現場の心ある公務員にのしかかる社会は怖いし、死者の残した資料が隠され、死ぬほどに追い詰められた事実関係すらうやむやにされる社会は怖い。国や役所は信用できないという絶望に慣れつつある自分らも怖いし、国の信用が低下すればするほど陰謀論やフェイクニュースが入り込み、ヘイトや差別となって出ていく構造も怖い。  どちらかというとウイルス禍よりもそちらのほうが怖いから、多くの市民が既に国の言うことなど聞くのをやめたのだろう。緊急事態宣言下の連休、都内はどこもかしこも、何を信用すればいいかわからない人々で賑わっていた。  自殺した赤木俊夫さんの妻・雅子さんは、取材記者との共著の中で「この2人(安倍前首相と麻生大臣)は調査される側で、再調査しないと発言する立場にないと思います」と言った。ファイルが存在するかどうかも、事実であって政治家や官僚が決めることではない。職員の自殺と公文書改ざんが関係あるかどうかも誰かの方針によって決めることではない。  私は数年間霞が関の記者クラブにいたことがあり、官僚たちの屈折のないエリート意識はそんなに嫌いじゃなかったが、一部の人は余計な自信に溢れすぎていて、AVサイン会の客よりもセクハラリテラシーが低かった。  俺に口説かれて嫌な女はいないという自信もどうかと思うが、自分たちが過去を変えられると思っているならいくらなんでもおごりがすぎる。人が変えられるのは未来だけで、歴史を書き換えようとする者に、明るい未来など描けるわけもない。 ※週刊SPA!5月11日発売号より’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

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