ニュース

田原総一朗と上杉隆が語る「五輪汚職と神宮外苑再開発」

 政府が国策として推し進めている再エネ事業を巡って、収賄の容疑で自民党の秋本真利衆院議員が逮捕された。マイナンバー問題の対応で国民の不信感が募るなか、岸田政権にとっては大きな打撃となっている。だが、巨額の資金が動く国を挙げた大きなプロジェクトは、時に深い「闇」を生むのも事実だ――。  今回、五輪汚職と神宮外苑再開発の“接点”に光を当てた単行本『五輪カルテル』(扶桑社)が話題のジャーナリスト・上杉隆氏と、政権の浮沈を見届けきたテレビジャーナリズムのパイオニア・田原総一朗氏が激論を交わした。

「五輪汚職と神宮外苑再開発」の意外な関係

五輪汚職と神宮外苑再開発

田原総一朗氏(左)と上杉隆氏

田原 岸田内閣の支持率が下がっているね。マスコミ各社の世論調査でも前月よりさらに低下し、支持率は30%前後と、政権発足以来の最低水準まで落ちてしまった。 上杉 ただ、7月の広島サミットでは、G7首脳が揃っての原爆資料館の訪問を初めて実現させています。 田原 岸田総理は、世界で初めて原爆が投下された広島出身。「核兵器のない世界」の実現に向けて目に見える成果が期待されたが、むしろ「核抑止力」を認める姿勢を示した。「核廃絶」への試みは後退してしまったね。 上杉 岸田総理は外相だった2016年、伊勢志摩サミットで来日したオバマ大統領(当時)の広島原爆資料館訪問を実現させています。米国大統領の訪問は史上初で、一定の成果を挙げたものの、滞在はわずか10分。しかも、被爆の実相をテーマとする「本館」には足を踏み入れず、「東館」のロビーに立ち入っただけでした。 田原 広島サミットではどうだったか? 上杉 原爆を投下した米国はもちろん、核保有国である英・仏の首脳も「本館」の訪問を拒んでいた。そこで、岸田総理は「東館」に「本館」の展示物を秘かに持ち込んだのです。こうして、初めてG7首脳が揃っての原爆資料館訪問を実現し、彼らの瞼に原爆被害の実相を焼き付けることに成功した。  そのうえ、世界2位の核保有国・ロシアと戦っているウクライナのゼレンスキー大統領の対面参加も実現したのだから、見事な手腕です。あの時点で解散総選挙に打って出れば圧勝だったのに、なぜしなかったんですかね? 田原 自信があったんだろうね。当時は、マイナンバーを巡る不祥事がこれほどの大ごとになるとは思ってなかっただろうし。だが、今は違う。マイナンバー問題に加えて、「総理の右腕」と言われる木原誠二官房副長官周辺でもスキャンダルが出てきた。今、政権の課題は木原問題と河野太郎デジタル担当相の処遇……。だが意外にも、自民党幹部は河野を辞めさせないほうがいいと言う。河野がいなくなると総理に直に批判が集中するから、だそうだ(笑)。 上杉 河野さんは“弾除け”ですか(笑)。マイナンバーの問題はもちろん、今年に入って逮捕者が出始めた再エネ事業を巡る問題も、国を挙げて強引に推し進めたプロジェクト。大きな事業はとかくブラックボックス化しやすいが、政治を巻き込む構図は一連の五輪汚職も同じです。 ――目下、『週刊文春』(文藝春秋)が一大キャンペーンを張って追及しているスキャンダルの渦中の人・木原官房副長官は、“永田町の政商”と呼ばれた矢島義也氏が率いる大樹総研にも繋がる。矢島氏は政界人脈をテコに官界に食い込み、大樹総研は再エネ関連の新興企業に政官への対策をコンサルティングして、莫大な利益を上げていた。  木原氏は、議員落選中に大樹総研に特別研究員に迎えられ禄(ろく)を食(は)んでおり、矢島氏との関係の深さが取り沙汰されている。2019年に秋元司前衆院議員が日本のIR参入を目指す中国企業・500ドットコムから賄賂を受け取った容疑で逮捕された件でも(一審で実刑判決。現在、控訴中)、500社は大樹総研の顧客だった。  さらに、国際政治学者・三浦瑠麗氏の夫・清志氏が逮捕されたメガソーラーを巡る横領事件でも、清志氏は矢島氏と関係が深いJCサービスから7億円の融資を受けた過去があり、大樹総研には東京地検特捜部の強制捜査が入っている。  今や再エネの推進は国策事業で巨額のカネが落ちているが、そこに生まれた利権の「闇」に有象無象が群がる構図は五輪汚職にも重なる。 田原 三浦瑠麗さんの夫は、原発推進派にやられたんだよ。  そうそう、上杉さんの書いた『五輪カルテル』を読みました。僕は1970年代、東京12チャンネル(現テレビ東京)の社員で、雑誌に『原子力戦争』という記事を連載していた(後に書籍化)。取材を進めると、原発推進派の運動のバックに電通がいることがわかる。  そのことを連載に書くと、会社(テレビ東京)から「連載をやめてくれ」「連載をやめないなら、会社を辞めてくれ」と言われた。おそらく、あらゆる方面から圧力がかかったんだろうね。テレビ東京はまだ小さな放送局だったので仕方がない。 上杉 それで田原さんはどうしたんですか? 田原 連載も会社も辞めなかった(笑)。それどころか、連載を原作にした映画までつくったんです(映画『原子力戦争』=1978年公開 監督/黒木和雄 主演/原田芳雄 製作・文化企画プロモーション/ATG)。すると、僕が所属する部署の局長が処分されると発表があり、会社を辞めざるを得なくなった。  退社してフリーになって数年後、朝日新聞から本を書いてくれと依頼があって、電通について書きたいと言ったんです。せっかく取材するのだから連載記事にしようということで、『週刊朝日』で連載することになり、1回目の原稿を出すと次の日、「全部書き直してくれ」と連絡が入った。たった1日しか経っていないから、本当のところはわからないが、どこかからストップがかかったのでしょう。 五輪汚職と神宮外苑再開発上杉 当時はそれほどのタブーだったんですね。でも、今はタブーというより、メディアの側が萎縮して、勝手に自主規制している側面のほうが強い。 田原 確かに。僕はそのとき、思い切って当時、電通の広報を取り仕切っていた小暮剛平さん(のちに同社社長、会長を経て相談役)に直談判しに行った。すると、なぜか小暮さんは僕のことを面白がってくれて、「今、電通は多くの問題を抱え、来たるべきマルチメディアへの対応など、今後進むべき道を迷っている」と言う。そして、こうしたことも含めて「自由に取材して、自由に書いてくれ!」と言ってくれたんだ。当時、こうしたタブーに斬り込む本はなかったから、連載をまとめた『電通』(朝日新聞。1981年)を出版するとベストセラーになった(笑)。  上杉さんもかなりギリギリのところまで書いているけど、大丈夫なの? 上杉 まぁ、担当編集がクビになるくらいでしょう(笑)。  五輪汚職の話をすれば、先ほど秋本衆院議員の逮捕の話が出ましたが、“バッジ”(国会議員)の逮捕を主導したのは、森本宏・東京地検特捜部長(当時)でした。その森本氏が次席検事に就任したタイミングで、一連の五輪汚職の捜査が始まったんです。 田原 汚職事件の中心人物・高橋治之元五輪組織委理事は逮捕され、当初は高橋を重用した森喜朗元五輪組織委会長の逮捕も噂されたが、現実には逮捕には至らなかった。  僕は、当初から検察は森さんを逮捕する気などなかった、と思っている。木原問題にしても、検察に圧力をかけて捜査を止めたなどと報じるメディアもあるが、そんな事実はない。検察が木原を恐れているだけだよ。 上杉 高橋元理事の逮捕は、最終的に森さんに辿り着くための捜査の“階段”だった。そもそも高橋氏の事件は、五輪スポンサー企業に選定する代わりに賄賂を受けた個人による単純な贈収賄事件。捜査は終了し、すでに司法の場に移っています。  でも、五輪テスト大会、本大会の運営事業の受注を巡る官製談合の捜査は、今もまだ続いる。事件の筋が悪いので逮捕まではいかないだろうといわれているが、やはり特捜の狙いは森元総理です。実際、森さんは少なくとも5回事情聴取を受けているし、側近は7回も東京地検に呼ばれている。  ただし、僕の取材では、森さんの逮捕まで事件が伸びる可能性はかなり低くなっています。逮捕があるとすれば、来年の2月まででしょうね。というのは、森本次席検事の任期が満了する予定だからです。森本氏のほかに総理経験者の逮捕まで視野に入れて動く人材は、今の検察には見当たりません。 田原 かつて検察は、その強大な権勢から“今太閤”と呼ばれた田中角栄元総理を、1976年のロッキード事件で逮捕している。いつから検察は力を失ったのか? 上杉 清和会(現安倍派)政権ができて以降、潮目は変わっていきます。まず2002年に小泉純一郎内閣が発足すると、党本部から総理官邸に権力が集中していきました。そして、安倍政権発足後の2014年に内閣人事局がつくられ、時の政権が官僚の人事権にも深く関与するようになる。「官邸官僚」と呼ばれる勢力が力を増したのもこの頃からで、これに歩を合わせるように、検察が政治家の不祥事に手を突っ込むことは減っていった。それは、東京五輪汚職が火を噴く2022年まで続きます。 田原 東京五輪招致に成功しながら、任期途中で失脚した猪瀬直樹元都知事(現在は参院議員)は著書『東京の敵』(角川新書)で、「自分は森喜朗元首相に失脚させられた」と明言している。
次のページ
神宮外苑に巨大利権を生み落とした“錬金術”
1
2
おすすめ記事