「生」のすごさは、スマホやパソコンでは伝わらないもの
——峯田さんご自身は、コロナ禍で生のエンターテインメントを観に行く機会はありましたか?
峯田:すごく限られますけど、何度かは感染対策を万全にしてから観に行きました。でも、映画にしても「映画館でちゃんと観る」っていう機会はだいぶ減っちゃいましたね。
ただね、先日、怪談の大会のライブを観に行ったんですよ。それはトーナメント制で「どの怪談師の話が一番怖かったか」を競い合うものだったんだけど、生でも観られるし、同時配信でも観られるものでした。
それを僕は生で観ていたんですけど、「この話が一番怖い。絶対優勝だろう」と思った人がいて、その人に投票しました。その大会には審査員の人もいたんだけど、大半がその人に投票したようでした。
でも、配信での票も含めると総数としては別の人のほうが高くなっちゃって。結果、その人とは別の人が優勝することになっちゃった。
そのときに僕が思ったのは「
『生』のすごさって、スマホとかパソコンでは伝わらないのかもしれないな」ってことでした。優勝できなかった怪談師は話もすごかったけど、空気が変わる、空気を止めるすごさがあった。でも、それはスマホやパソコンの画面からはきっと伝わらなかったんだろうなっていう。
これは音楽、舞台、あるいはスポーツとかもきっとそうで、その場にいないと伝わらないものってあると思います。逆に言えばそれこそがライブ、舞台の醍醐味とも言える。コロナ禍の制限ある今だからこそ『物語なき、この世界。』では「生」のすごさを感じられるような舞台にしたいと思っています。
「必死である」ことを客観的に見ると、滑稽に映ることがある
——『物語なき、この世界。』、どんな内容なのでしょうか。
峯田:キャスティングは岡田将生くんが主演です。そのほかにも多くの役者さんが出演されます。
新宿・歌舞伎町を舞台にしたもので、人生に“ドラマ”を求める現代人に向けたものです。まだ作っている最中なので、どんどん変わっていくと思うけど、三浦さんの作品なので、「人間って必死であればあるほど、客観的に見ると滑稽に見える」っていうことを表現するものなのだと思っています。
たとえば友達同士で言い合いになったとするでしょう。本人同士は必死に意見を主張し合ってるけど、その様子を隠しカメラで撮っていたとしたら、ゲラゲラ笑えるものですよね。あんな感じを飛躍させて三浦さんが「今の時代」を斬ってくれるんじゃないかと思っています。
これまでに話した通り、コロナ禍で「生」を体験できる機会って本当に限られていますよね。でも、「生」でないと味わうことができないものもある。今、この矛盾を埋め合わせるのは難しいけど、でも「ちゃんと『生』で感じたい」と思って、劇場まで観に来てくれる人には、何がなんでも最大限の表現を見せたいです。
バンド、役者さん、演出家、映画監督……エンターテインメントに関わる多くの人が様々な思いをもって、模索していると思いますけど、僕は「今の自分」「生の自分」を舞台で見せたいと思っています。
【
峯田和伸】
1977年・山形県生まれ。2005年、ロックバンド・
銀杏BOYZを結成。以降、ミュージシャンとしての活動と並行して役者としての活動も行い、これまでに映画、ドラマ、舞台などに数多く出演している。
<取材・文・写真/松田義人(deco)、スタイリスト/入山浩章>
音楽事務所、出版社勤務などを経て2001年よりフリーランス。2003年に編集プロダクション・
decoを設立。出版物(雑誌・書籍)、WEBメディアなど多くの媒体の編集・執筆にたずさわる。エンタメ、音楽、カルチャー、 乗り物、飲食、料理、企業・商品の変遷、台湾などに詳しい。台湾に関する著書に『
パワースポット・オブ・台湾』(玄光社)、 『
台北以外の台湾ガイド』(亜紀書房)、『
台湾迷路案内』(オークラ出版)などがある