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アサヒ×キリン、ビール業界の巨人阪神戦。現在の勝者はどっちだ

キリンの「医療分野」とは?

キリンビール

キリンビールHPより

 一方、キリンはどうでしょうか。こちらは現在、海外事業の売却を進めています。2017年に不振のブラジル事業を売却し、2019年にも豪州事業の一部を売却し、海外子会社を精算しつつあります。  今から遡ること10年前。  2011年にキリンはブラジルのビール大手、スキンカリオール(現ブラジルキリン)を約3000億円で買収。中国、米国に次いで世界3位のビール市場を持つブラジルを中長期の成長ドライバーに位置付けていました。ところが、事態は大きく変わります。  2014年ごろからブラジルでの販売数量が減り、2015年12月期には約1100億円もの減損損失を計上し、上場来初の最終赤字となったのです。その後、スキンカリオールの買い手が見つかり、キリンはブラジル事業から手が離れています。  その一方で、キリンは新たな成長源を見つけています。それが「ヘルスサイエンス事業」です。特に重点領域と定めるのが免疫、脳機能、腸内環境の3分野です。「飲料メーカーがヘルスケア? どういうこと?」そう思った方も多いかもしれません。

飲食メーカーが目指すもの

 現在、世の中の食品メーカーが目指す最終ゴールは、「個別化(パーソナライズ化)」。つまり、個人個人に合わせた商品を展開していくことです。オーダーメイドのスーツを着るように、食べ物や飲み物もオーダーメイドで口に運べる社会をつくろうとしているのです。ただし、いきなりここを目指すのには、越えなければならないハードルがたくさんあります。そこでキリンが取り組んでいるのがヘルスケア領域への投資だったのです。  ポイントは、買収して傘下に治めた「ファンケル」と「協和発酵バイオ」の存在。ファンケルと言えば、化粧品やサプリメントの開発やマーケティングの知見が深い企業として知られています。つまり、キリンが目指す「個別化」のノウハウを持つ企業なのです。  すでに、2019年に傘下に入ったファンケルとの事業シナジーは2020年には約1億円だったとキリンは報告しています。さらに、2021年は傘下の協和発酵バイオの通販事業を強化することで、シナジー効果10億円を見込んでいます。この「オーダーメイドな食生活」はいかにして実現していくでしょうか。簡単にそのステップを解説します。  まずはキリンの強みである飲料・食品で「エントリーマス」を獲得していきます。機関となる商品を投入するわけですね。次に、より健康を意識した「サプリメント事業」を展開します。「健康を維持できる食生活」を支える商品を増やしていくフェーズと理解してもよいでしょう。  最後にファンケルの強みを生かしてひとりひとりに合った商品を提供する「オーダーメイドの食生活」、つまりパーソナルな商品展開していくのです。
馬渕磨理子

馬渕磨理子

 この1年、大きな苦境に立たされたビール業界。1位と2位の詳細を調べてみると、両者で大きな戦略の違いがあったことがおわかりいただけたと思います。  一時的に売り上げは落ち込んでいるものの、また1994年のように、今度は消費者の健康を維持したうえで「ぐいぐいよしこい!」できる日が来ることを祈っています。 <文/馬渕磨理子>
経済アナリスト/一般社団法人 日本金融経済研究所・代表理事。(株)フィスコのシニアアナリストとして日本株の個別銘柄を各メディアで執筆。また、ベンチャー企業の(株)日本クラウドキャピタルでベンチャー業界のアナリスト業務を担う。著書『5万円からでも始められる 黒字転換2倍株で勝つ投資術』Twitter@marikomabuchi
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