お馬さんの駆虫薬!
筆者は、合衆国内でイベルメクチンの出荷量がうなぎ登りという外報を以前目にしていましたが、今回は人間用の処方薬でなくお馬さんの薬です。報道映像はきっちり筆者の脳に映像記録されていますので早速検索して見つけました。まず
メーカーのパンフレットです。
この
お馬大好きリンゴ味イベルメクチンペーストは、「1シリンジに1250ポンドの馬1頭を治療するのに十分なペーストが入っています。」とのことです。だいたい馬体重600kgであり、標準的な大きさの馬です。人間の10倍あります。
体重1kgあたり200μgのイベルメクチンを投与とのことで、これは人間に駆虫薬として投与する場合の単位体重あたり用量と同等のようです。
馬は、大型動物ですので、
馬用の量を人間が摂取するとたいへんな過剰摂取となります。筆者が試算したところ、イベルメクチンのCOVID-19用の大量投与量として考えられる量を遙かに超えるため、極めて危険です。
また、メーカーパンフレットでは明記されていないのですが、
副成分が含まれる可能性があります。そもそも家畜用のイベルメクチンペーストには様々なブランドがあり、筆者が見つけたブランド以外もあり得ます。またパンフレットの効能があまりにも広いスペクトルを持つために筆者は、他の副成分が入っているのだろうという強い疑念を持ちました。自分自身も含めすべてを徹底して疑うのは医学を除く学問の基本である懐疑主義そのものです*。
<*医師が理工学者や人文社会学者のような徹底した懐疑主義者だと患者を殺してしまいます。医学歯学などの医系学問が、その成り立ちから他の分野の学問と根本的に異なる勘所です。もちろん、学問の間に優劣や貴賎はありません。学問は等しく偉大です>
お馬さんの駆虫薬としてのイベルメクチン製剤について詳細は英国にありました。ここで詳細な成分表が分かります。
The active chemical ingredients in horse wormer brands – Wormers-Direct
イベルメクチンが主成分ですが、
あくまでこの薬はお馬さんの駆虫薬です。お馬さんの駆虫薬としてのイベルメクチン製剤には、いろいろ入っています。
・
Moxidectin(モキシデクチン)
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プラジカンテル
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フェンベンダゾール
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ピランテルパモ酸塩
イベルメクチンの他に四つの有効成分が含まれている事例があります。これらは
人間にはあまり使わないような成分もあり、このようなものを医師の管理外で大量服用することは極めて危険です。
さすがに死人は出ていないようですが、これではδ株Surgeへの対処に失敗した合衆国南部諸州ではタダでさえ忙しいER(救急病棟)へ薬物中毒者が集まり、医療への過負荷を更に高めます。KFORの報道を見ても
Dr. McElyeaの主張はこの点にあり、救急医療に関わる医師としては、腹に据えかねて言わずにはいられなかったのでしょう。
動物の薬を人が使ってはいけません。それだけのことです。
まずこの報道がなされた現場は
オクラホマ州(OK)であることに注目しましょう。オクラホマ州はテキサス州の北にある典型的な南部の農業・化石資源州です。
オクラホマ州でもδ株Surgeには苦しんでおり、本邦と同様に6月からSurgeがはじまり、8月には医療が圧倒される状況にありました。日毎新規感染者数のピークは、約700ppmであり、本邦の最高値の3倍程度です。
また南部諸州は
共和党支持者が多い所謂「赤州」(共和党は赤色で示される)であり、
宗教的・政治的信条からのワクチン接種拒否者がたいへんに多い*という特徴があります。そのため現在も毎日40人近い人が亡くなっており、δ株Surgeでの致命率は2%近く本邦の約5倍の数値です。また、ワクチン拒否者だらけの地域でもあり、社会的距離も換気も無しで普通に生活するため、ガンガン感染します。
<*
CNN朝の報道番組New DAY 2021/09/29によれば、合衆国の成人で最低でも1回COVID-19ワクチンの接種を行った人の割合は、民主党支持者の92%であり、共和党支持者では56%に留まっている。合衆国の二大政党支持率は、45%前後とほぼ同率である>
2020年に、当時合衆国大統領だったトランプ氏が推奨しながら自身は使わなかったクロロキンによる失明や死亡などの中毒事故が多発しましたが、今年は
お馬さんの駆虫薬、イベルメクチンペーストを使って重症の皮膚疾患などが多発したという事です。
KFORの記事を読んでも、「
家には常に(お馬の)イベルメクチンがある、ずっと(お馬に)使ってきた」という証言があり、ワクチン打っていない、マスクをしない、防護をしないために当然感染し、手っ取り早く噂のイベルメクチン(お値段7ドル)を摂取したという事です。困ったことに、人間の薬で無く大型動物であるお馬の薬で、当然、獣医師も医師も関与しませんから大勢が薬で中毒を起こしたという事です。
人間のイベルメクチンでも大量連続投与は安全性という点では未知であり、効果も未知であるために、その結論を出すためにも世界中で治験が行われています。本邦では
北里大学の花木秀明教授と興和株式会社が共同で治験を行っています*し、他の治験集団もあるようです。
<*
新型コロナウイルス感染症患者を対象としたイベルメクチンの臨床試験【開発コード:K-237】を開始 2021 年 7 月 1 日 興和株式会社>
もちろん、
治験中の薬ですからその薬が目的に要する用量の投与で安全か、効果はあるか、投薬によるリスク・ベネフィットの比較考量は成立するかは未知です。臨床試験の結果を待つのが当然のことです。
また世界でも多くの臨床試験が行われていますが、
まだ結論は出ていません。合衆国では批判的な論調が強いですが、結果の出ていない治験ですから批判はあっても仕方ありませんし、実際に問題のある治験や報告もいくつか指摘されています。
特に2020年の12月までは、ワクチンは存在せず、治療薬もたいした成果を出せていなかったためにイベルメクチンは、
ワクチンの代用になるなどの根本的に誤った風聞も発生し、現在も
「イベルメクチンでワクチン不要」という誤った主張をする人が居ます*。
<*感染者との接触など感染疑いのあるときに、早期にイベルメクチンを服用すると発症が避けられるという考えがある。しかしこれは治験で実証されたわけで無く、また発症を抑えるという意味合いであって、ワクチンの代用になるという主張は誤りと筆者は考えている。またイベルメクチンの予防薬としての服用は、副反応リスクから筆者は基本的に支持しない>
こういったことから
自称「ニセ医学デマバスター」達が、イベルメクチンを目の敵にし、日常的に研究者を誹謗中傷するという醜い行為が公然とたいへんに多く行われています。「マスク不要」、「検査をすると患者が増えて医療崩壊」、「ワクチンに副反応など存在しない」、「空気感染はデマ」*など無数のエセ科学・エセ医療デマゴギーを垂れ流し、実名の人物を激しく執拗に誹謗中傷してきている自称「ニセ医学デマバスター」(医クラ)とは違い、研究者にしろ、臨床医療従事者にしろ技師にしろ人類と学問と患者のために日々献身しています。客観的な批評は当然としても「
価値のない他人の権威」を笠に着た誹謗中傷は「みぐるしい」の一言でしょう。
<*
10/5公開の拙稿とほぼ同時に
厚労省は、COVID-19のQ&Aでエアロゾル感染の存在を明記した。トランプ政権中枢の妨害で数ヶ月遅れたとされる合衆国疾病予防管理センター(CDC)に更に1年遅れたことになる。
おまけ
おまけとして、犬猫用のイベルメクチンはどうでしょうか? これも駄目です。実は筆者は、あまりに話題なので、後学のために2020年に中国からお猫様のイベルメクチンを個人輸入しています。時々、医師や科学者仲間と話の種にしていましたが、「
お守りにおいておくだけで使えないね」という結論となりました。
犬猫用のイベルメクチン
ラベルを見るとイベルメクチンとして一錠あたりの成分量は書いてありますが、他は書いてありません。この時点で人間には使えません。市販の人間用の薬は、基本的にすべての成分が表示されています。錠剤でしたら固めるための担体もすべてです。
人間の食べ物を犬や猫に与えてはならないように、中小型動物であっても犬や猫の薬を人間が服用すると、犬や猫に無害な何らかの成分が人間に悪さをする可能性があります。また不純物管理が人間の薬のように厳格であるという保証はなく、ジキル博士とハイド氏の薬のように不純物が原因で思わぬ事が起こり、しかも再現できないので対策できないという事も起こりかねません。かつて食品用で無い薬品を食品製造ラインに使った結果、不純物のヒ素により大規模なヒ素中毒惨害を起こしたのが1955年に発生した森永ヒ素ミルク事件です。そして忘れてはならないのは、
人間は60〜100年生きるため、10〜25年程度の寿命の動物と異なり薬品や放射線などの長期リスクが無視できない場合があるということです。
消毒薬の話と同じで、人間の薬で無い限り、薬品は
「
飲むな、食べるな、混ぜるな、塗るな、吸い込むな、死ぬぞ」
です。
今回は、これまでです。
<文/牧田寛>
まきた ひろし●Twitter ID:
@BB45_Colorado。著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについての
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