更新日:2021年12月23日 19:41
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被害総額9億円超。コロナ禍で医療従事者たちを食い物にした“魔性の女”の素顔

執行猶予付き判決が下された矢嶋真澄。一介の事務員だったが経理を担当する理事を性的に支配し、詐欺、横領へと突き進んでいった

 世界がコロナ禍に見舞われてすでに2年近くが過ぎようとしている。日本では収束の気配が見えつつあるものの、ここへ来て再び南アフリカ由来の変異種、オミクロン株が確認され、世界は再び“禍”の渦に巻き込まれつつある。  そんなコロナ禍の最盛期、疲弊しつつも懸命に働く医療従事者によって支えられていたこの日本で、当事者たる医療関係者によるさまざまな卑劣な事件が勃発したのもまた事実だ。  今回取り上げる事件は、その最たるものだろう。人間というものが、欲に溺れ、欲にまみれたときどうなるのか。あまりにえげつない行為の詳細が関係者たちの証言から明らかになった。

潜伏先の宮崎で緊急逮捕された“魔性の女”

 11月9日、東京・立川簡易裁判所305号法廷。まだ40代前半と思しき若手の裁判長が主文を読み上げた。 「被告人を懲役2年6月の刑に処する。ただし諸般の事情を鑑み、執行猶予期間を4年とする」  その瞬間、裁判長の正面にぴんと背筋を伸ばして座っていた矢嶋真澄こと志賀真澄(49歳)の華奢な肩は小刻みに震え出し、しんと静まり返っていた法廷内に、洟水を啜る音がこだました。傍聴席に背を向けて座る彼女の表情を伺うことはできなかったが、おそらく泣いていたのだろう。  しかし、裁判を傍聴していた彼女の元夫である美容院経営の男性(43歳)は閉廷後、怒りを露わにして、記者にこう呟いた。 「泣いてましたね。演技というよりも、感情の起伏が異常に激しい女なんです。そのせいで僕も相当な被害を被ってきました」  元夫については後にまた触れるが、事件の概要はこうだ。 「今年5月18日、矢嶋真澄は潜伏先の宮崎県の住処を捜査陣に急襲され、警視庁によって緊急逮捕された。矢嶋は当時、立川市の医療法人・Sの関連クリニックの理事で、事務方のトップだった飯島聡介(38歳・後に逮捕、現在公判中)と共謀し、在宅診療をしたと偽って診療報酬を詐取。捜査関係者によると逃亡生活をスムーズにするためか、籍を抜いて名字を矢嶋から志賀に変え、志賀真澄として生活していた。逮捕の約1年前から捜査本部の内偵が入っていたというから、警察がいかにこの事件を重大視していたかが伺えます」(全国紙社会部記者)  飯島被告の裁判の結審はまだ先だが、裁判で認定された詐取金額は146万4560円。一見、大した金額には思えない。ところが、「詐欺事件は一般に被害額認定が非常に難しい」(同記者)とされており、実際の詐取金額は「桁が違う」という指摘もある。

「9億円もの大金が流出した」

「今回の判決は序の口に過ぎません。矢嶋の裁判では診療報酬を詐取した件のみ裁かれ、被害者は国民健康保険連合会ということになるわけですが、最大の被害者は我々クリニック側なんです。本当に困っています」  こう憤るのは、矢嶋と飯島が逮捕前まで勤務していた訪問診療専門クリニックの現・事務局長で、上部組織である医療法人Sの理事を務める菊池拓也氏だ。  21年2月に矢嶋が、4月に飯島が突如姿を消し、クリニック側が困惑していたところ、突然逮捕の報が入り、はじめて事件を知ったのだという。 「まさに寝耳に水でした。首謀者二人のせいで、まったく事件に関係のないクリニック関係者も事情聴取を受けるなど、コロナ禍で多忙を極める中、大きな損害を被りました」(菊池氏)  大きな損害とは、捜査への対応や評判の低下だけではない。とんでもない金額が2人によって持ち出されていたことが内部監査で判明した。  二人の逮捕後、会計士に依頼してこれまでの経理を精査したところ、 「最低でも9億円という大金がクリニックの口座から流失していることが発覚。これも矢嶋こと志賀真澄の手引のもと、飯島がいろんな口座に振り込んだり、うちが保有していた不動産を抵当に入れて金を借りていたことがわかりました。現在、民事訴訟に向けて準備中です」(菊池氏)  というから驚く。判明しているだけでも9億円、最大で14億円超――いったいその金はどこに消えてしまったのか。
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一介の事務員が主導した巨額横領事件
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