更新日:2021年12月13日 08:08
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おっさんだけが知る厚木の本当の魅力。本厚木駅前のダブルファミマは異世界への扉

ギャルに東名厚木健康センターを教えて誇らしくなる

 この裏バス停、待機の列が長くなることがある。なにせ1時間に1本しかないので、お客さんが集中する時間になるとけっこうな長蛇の列になるのだ。  バスが来る45分くらい前にこの場所に行ってみると、めちゃくちゃ気の早いお婆さんが二人、仁王立ちして待っていたりする。30分くらい前になるとポツポツと大人しそうな若者やおっさんが並び始める。15分くらい前になると10人くらいは並んでいて、密にならないように間隔をあけるものだからまあまあ長い列が形成される。5分前くらいになると20人くらいになるのではないだろうか。そこまで大きいバスが来るわけではないので乗り切れるんだろうかと心配になることもある。  並んでいる20人はいわば猛者だ。東名厚木健康センター猛者だ。これから訪れるサウナタイムを妄想し、どんなに冷たい風が吹き荒れようとも表情一つ変えず、微動だにせずに並んでいる。面構えが違う。けれども、一般の人からみたら謎の行列なわけだ。何の変哲もない場所に謎の行列ができているように見える。  本厚木に住んでいる人ともなると、本厚木マスターだ。このような謎の行列を見てもいつものことなので「ははーん、東名厚木健康センターのバス待ちだな」と理解できるけれども本厚木ビギナーになるとそうはいかない。謎の行列に困惑し、なにか限定商品が売り出されるのだろうかと気が気じゃない状態になるのだ。 「すいません、この行列はなんですか? 何か発売されるんですか?」  行列の最後尾に並ぶことが多い僕は、本厚木ビギナーにそう質問される。質問してくるビギナーはだいたい若いギャルだ。ギャルがいちばん行列に対する好奇心が高いのだ。 「東名厚木健康センターってこの世に現出した桃源郷みたいな施設がありましてね。そこへのバスを待っているんですよ。もし体や心がお疲れなら一度は行ってみるといいでしょう。チャーハンがめちゃくちゃ美味いですよ。マンガもたくさんあります」

東名厚木健康センターで心も体も洗濯できる

 これが大切なのである。良いことをした気分になるのだ。  こうやって謎の行列のことを道行く本厚木ビギナーに教えてあげる。すると世間に貢献した気分がして自分が誇らしくなるのだ。  世間から疎まれ、嫌われる僕らおっさんもこの世に存在していいんだという気持ちにさせてくれる。これが大切なのだ。東名厚木健康センターにおける心の洗濯は本厚木駅の時点で始まっているのだ。  ちなみに、ごくまれに、行列ができているんだからとにかく並んでみるか、なんかいいもんがあるんだろというノリでよくわからずに最後尾に並ぶ人がいる。その人が本厚木ビギナーに質問され「さあ」と答え、それを聞いてとりあえず並んだ人がまた聞かれ、いつのまにか「めちゃくちゃ美味い焼き立てパンを待つ行列らしい」という合意がビギナーの間で形成されることがある。焼き立てパンのような柔らかい期待感が彼らを包むことがあるのだ。  そこにガーッと「東名厚木健康センター」と書かれた車がやってくる。前のほうに並んでいた猛者どもは戦地に向かう兵士が輸送機に乗り込むように黙々とその車に乗り込んでいく。パンを待つ人の間でめちゃくちゃ微妙な空気になったことがあるのだ。  けれども、その1時間後、パンを期待して並んでいたはずのギャルが、せっかく待ったんだし行っとくかと東名厚木健康センターに向かい、サウナでキマってデロデロになっている姿を見たことがある。パンを待つ人すらもリラックスさせる、ここはそれほど偉大な施設なのだ。たぶん彼女はこのまま常連になると思う。こうして猛者が育成されていくのだ。  東名厚木健康センターで心も体もリフレッシュする。日々に疲れているおっさんどもには是非ともお勧めしたい。そして、その心の洗濯は本厚木駅から始まっている。疲れているなと感じたら小田急線に乗って本当の厚木駅を目指し、ダブルファミマを目指そう。そこは異世界への入り口なのだ。 ロゴ/ヒールちゃん(@heelhell
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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