更新日:2021年11月11日 13:41
エンタメ

俺の餃子はどこに消えた!怒るタイミングを逃し続けた僕にラーメン店員は…

【おっさんは二度死ぬ 2ndseason】

第11回 怒りのタイミング

 大変なことになってしまった。  大規模チェーンのラーメン店。繁華街にあるこの店舗は昼食時だけあって店内は大混雑だ。一人用のカウンター席が満席だったのでそのまま4人席に通された。一人でこの席を占拠するのは少々バツが悪い。左には何らかの学校の見学に来た感じの女子高生とお母さんの親子連れ。左にはサラリーマンが陣取っていた。どちらのペアも2人用の席に狭そうに座っている。ますますバツが悪い思いがした。  僕はこういった店では必ずラーメン餃子セットを頼むことにしている。いうまでもなくラーメンと餃子がセットとなったものだ。このラーメン餃子セットはこの世のあらゆる「セット」と名がつく事象において、攻守のバランスがもっとも優れたものだ。  まず、ラーメンだ。こういったチェーン店の場合の多くは、成人男性にとってちょっと量が物足りないように設定されている。それを補うように「大盛り」時には「特盛り」という概念があるけれども、それはいささか品がない。足りないから増やす、それはたぶんエレガントではない。  そこで登場するのがセットとしての「餃子」だ。単品で頼んだ時より少し少ないセットとしての餃子。これにはラーメンの不足分をスッと補う品の良さがある。これがラーメンチャーハンセットだった場合、いささか暴力が過ぎる印象だ。強打者を並べた打線なら最強じゃんみたいな短絡的な暴力性がある。あくまでも餃子だからそっとサポートに回る印象だ。  もちろん、ラーメンと餃子の関係性も重要で、ラーメンは餃子の味を引き立たせるし、餃子もラーメンの味を強く印象付ける。そういった意味でこのセットはこの世のセットの中で攻守のバランスがもっとも取れているのだ。  最近では口頭で注文するのではなく、タッチパネルを駆使して注文するようだ。悩むことなくラーメン餃子セットを注文する。セットメニューの先頭にあったのでみんな同じ思いなのだろう。攻守最強だからな、と確認するように呟いて注文ボタンを押す。すぐに威勢のいい兄ちゃんがラーメンを運んできてくれた。あまりに早すぎて面食らったくらいのタイミングで運ばれてきた。 「良い!」  少し薄めの醤油スープに太めの麺。その量はやはり少し物足りない感じだ。これに後から運ばれてくる餃子とを交互に食べれば完璧だ。ラーメンに対して餃子がちょっと遅れて出てくるのも趣深くていい。奥ゆかしさすら感じる。

いつまで経っても来なかった餃子

 と考えながらラーメンを食べていたら、何やら様子がおかしい。 「餃子が来ない」  完璧たるラーメン餃子セット、その布陣の片割れ、餃子がこないのだ。そのうちくるだろうとラーメンを食べ進めていたら、すっかり半分くらいまで食べてしまった。  さあ困った。大変なことになってしまった。  このままではラーメンを食べきってしまう。餃子が運ばれてくる前に食べきってしまう。それは攻守最強の組み合わせを楽しめないどころか、なんか餃子が来るのを待てなかった途方もない食いしん坊みたいに思われてしまう。  まずい、まずい。なんとしてもそれは避けなくてはならない。意識的にゆっくりと麺を食べ進める。それでも一向に餃子が来る気配がない。このままではこのペースでも完食してしまいそうだ。もうチロチロと麺を一本ずつ口に運ぶ状態だ。それでも餃子はやってこない。絶対に忘れられていると思う。  いよいよ店員を呼びつけて文句の一つでも言ってやろうかと思ったその時。隣のサラリーマンの会話が聞こえてきた。 「それでさ、怒るタイミングって難しいわけよ」
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怒ることで生じるあらゆるリスクが頭を駆け巡った
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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