更新日:2022年02月22日 20:12
ニュース

“コロナの女王”岡田晴恵がオミクロン楽観論に警鐘を鳴らす「自宅療養と仕事継続の準備を!」

 昨年12月に白鷗大学教授で感染症専門家の岡田晴恵氏が、この2年間に渡るコロナ騒動の舞台裏を克明に描いた書籍『秘闘:私の「コロナ戦争」全記録』を上梓した。「オミクロン株が大流行する前に、どうしても真実を若い世代に伝えたかった」と語る岡田さんに、これまで感染症とどう関わってきたのかを聞いた。
岡田晴恵

岡田晴恵氏

「私が国立感染症研究所に入所したのは、1990年代後半。当時は薬害エイズ事件が起こった頃で、免疫学を勉強している私のような大学院生からすると、非常に気になる話題でした。それをわかりやすく解説し、舞台裏まで記したのが、漫画家・小林よしのりさんの『新ゴーマニズム宣言スペシャル 脱正義論』。正義感と国民の健康を守るという熱意に感銘しました。それから『厚労(厚生)行政に、しっかりとした姿勢で臨める研究者が必要だ!』と思って、感染研の採用に応募したんです。小林さんの本は、今も書斎に大事にあります」  小林よしのり氏の著作から影響を受けたと明かす岡田さん。感染研入所以来20年に渡って、来たるパンデミックに備え、国内外の感染症研究者、厚労省役員、政治家などとコンタクトを取ってきたが、今回のコロナ禍ではその知見が大いに活かされたと言っていいだろう。実際、『秘闘』を読むと、コロナ禍において、岡田さんが舞台裏で田村憲久前厚労相や新型コロナ対策分科会の尾身茂会長など政府のキーパーソンに詰め寄り、スピーディーな政策決定を迫るシーンがつまびらかに書かれているからだ。 「これまで、国の専門家の先生はとにかく楽観的に方針を決めてきたように感じます。パンデミックにおいては、最悪の事態を想定し、初めに強く、早く、厳しい対策を打ち、感染拡大を抑えて短く切り上げることが鉄則です。でも、何も起こらないうちに先手の対策を打つと、「やり過ぎ」といった批判を浴びかねない。だから、事が起こってからの後手後手の対応になった。専門家が政治家にどこまでちゃんとパンデミック対策の説明をしていたのか? そもそも、新型ウイルスが蔓延することの危険性を専門家が本当に理解し、想定していたのか?政策に関わる専門家の先生方の、新型コロナ発生から1年間のリスク評価に問題があったのでは?」  岡田さんがメディアに登場し、積極的に発信することで、多くの人たちが感染予防に務め、その結果、海外に比べて格段に死者重症者の数を抑えたのは紛れもない事実だ。だが、コロナ禍にあっては批判の声も上がった。時に剥き出しの言葉で不満の声をぶつけてくる姿なき声もあった。 「私が検査の必要性や医療拡充、対策強化を言っていたのは、流行を抑えて経済へのダメージを最小限度にするため。検査をして、陽性者を隔離することで感染拡大を未然に防ぎ、安心して経済を回すことで、国民生活を守っていきたかった。今、やっと無料検査場ができてきて少しずつ前進していますが、まだまだ体制としては不十分です」  メディアで訴えてきたことは、政府のコロナ対策への提言だけに止まらない。岡田さんは、一般の人がすぐに実践できる身近なコロナ対策も、多くの人に拡めてきた。その一例が、1枚の爪だけネイルをせずに、テレビに出演するというもの。血液中の酸素飽和度を測るパルスオキシメーターは、ネイルをつけたまま使用するとエラーが起こる。そのため、いつコロナに感染しても正しい診療が受けられるよう、このスタイルの周知に努めているという。
岡田晴恵

左手の親指と右手の人差し指の爪には、ネイルを塗っていない。高級指輪をつけていると言われることもある岡田さんだが、実際は2000円程度。「少しでも手に目がいってネイルで診察ができなくなることを知ってほしいから、煌びやかなものを選んで着けています」

オミクロン株が、医療と日常生活を同時に壊す危険も

 現在、オミクロン株が急拡大している。東京など1都12県では1月21日からまん延防止等重点措置が適用されることになった。先行きが見通せないなか岡田さんが心配するのは、医療現場の混乱だけでなく、もっと大きな社会インフラ全体への影響だと話す。 「オミクロンは上気道で増え、感染力が強い。会社に1人感染者が出るだけで、瞬く間に拡がります。社内で欠勤者が同時に出ることもありえるでしょう。例えばトラック運転手の人が1割2割寝込んだら、物流が滞って日常生活に影響が出ます。2月には『コンビニにお弁当があんまりない!』なんてことが出るかもしれません。だから、生活必需品は少し多めに備えておくなど、日頃からそういった準備をすることが求められます。」  岡田さんが指摘するように、すでに医療従事者の間では感染が広がっており、今後コロナの受け入れ態勢に支障が出るのではないかといった懸念の声もある。社会全体を支えるエッセンシャルワーカーの人たちの多くが感染したり濃厚接触者となったら、社会経済活動は立ち行かなくなるだろう。今後は、医療やインフラが機能しない中での生活も視野に入れる必要がある。 「たとえ軽症化したと言ってもオミクロン株に油断は禁物。後遺症もまだわからない。前もって社内で欠勤者が半数以上出た場合の事業継続計画の確認をしていく必要があるでしょう。高齢者やワクチン未接種のお子さんは、軽症では済まない可能性がある。今後、感染して自宅療養になることも想定して、レトルトのお粥やスポドリ、風邪薬を家族分用意しておいてほしい。さらにコロナの影響で私たちは約2年間、インフルエンザの流行も経験していないから、インフルエンザに対する免疫も下がっています。海外では両方同時に罹った症例の報告もあります。持病の悪化もある。流行時には医療になかなかかかれないことも、第5波では経験しました。さらに妊婦さんがコロナに罹ったときに診てくれる産科病院を自治体は今すぐに決めて地域に告知してほしい。今、すぐにも!」 「これから2月はコロナの正念場です」と語る岡田さん。  政治家や専門家らとのやり取りを明かし、日本のコロナ対策の舞台裏を包み隠さず記録した『秘闘:私の「コロナ戦争」全記録』を読むことで、これからの感染症対策への考え方を深めていきたいところだ。 <プロフィール> 岡田晴恵(おかだ・はるえ) 1963年、埼玉県出身。白鴎大学教授。共立薬科大学大学院を修了後、順天堂大学にて医学博士号を取得。国立感染症研究所、ドイツ・マールブルク大学医学部ウイルス学研究所、経団連21世紀政策研究所などを経て、現職。専門は感染免疫学、公衆衛生学。テレビやラジオへの出演、専門書から児童書まで幅広い執筆、講演活動などを通して、新型コロナウイルスを始めとする感染症対策に関する情報を発信している。新著に『秘闘』(新潮社)。 <取材・文/コンドー・ルイス>
1997年生まれ福島県出身。現在「週刊SPA!」でカラー特集と『ツイスパTV裏リポート』の編集を担当中。過去には『ファミリーヒストリー』などのドキュメンタリー番組ADやタイタン事務所で芸人修行を行う。得意科目はお笑いと幕末史。

秘闘:私の「コロナ戦争」全記録

“コロナの女王"は何と闘ったのか――。この国の「真の病」を明かす迫真の告白手記

おすすめ記事
【関連キーワードから記事を探す】