リーマンショック後に多くの腕時計が下落したわけですが、アベノミクスが始まった2013年頃から、上昇傾向となり、2014年頃には2007年水準ぐらいにまで回復していたといえます。 　そして、その後も中古腕時計相場は上昇し続けます。 　しかしながら、この116400GVについては、2017年ぐらいまであまり変化がなかったのです。 　116400GVは、リーマンショック後の新品実勢価格は約65万円でしたが、2012年の中古相場は50万円程度。では、2017年の中古相場はどうなっていたかというと、3月時点で約55万円でした。 　リーマンショック後から2017年にかけて、多くのロレックスは「10万円以上高くなる」という値動きが半ば当たり前だったといえますが、116400GVは5万円程の差にとどまっていたわけです。 　その結果、116400GVはかつてのように「高く評価されるロレックス」という印象ではなくなり、気づけば「スポーツモデルにしては安いほう」といったポジションに変化していました。 　そのため、今となっては、「かつて116400GVがものすごい人気モデルだった」ということを知る人は少ないことだと思います。むしろ「不人気なスポーツモデル」と感じている人のほうが多いでしょう。 　2017年以降、この116400GVは「全く値動きしなかった」というわけではなく、年々じわじわと上昇したのですが、かつてのように「デイトナ以上の水準」となることはなく、ロレックススポーツモデルの価格帯としては、依然として安価な立ち位置となっていたのです。 　ミルガウス116400GVの中古相場は、2021年9月まで104万円程度といった水準でした。これは、2017年の約55万円と比べると高くはなっているものの、「4年半かけてじわじわと動いた結果」といったところ。他のスポーツモデルの場合、もっと激しい価格変動が起こっていたわけです。 　そのため、2007年の状況を知っている時計ファンからすると、「116400GVが再び180万円になることはない」と思われたでしょう。 　そんなミルガウス116400GVですが、2022年になると相場は急変動。中古最安値（ABランク以上）は、1月前半に約129万円となり、1月後半には約157万円にまで到達。2022年1月中という数週間の間で、27万円もの上昇をしたわけですが、こういった短期間で数十万円単位の上昇となるのは前代未聞だったといえます。 　この157万円という中古水準は、2008年6月時点の新品実勢価格＝約158万円とほぼ同等ともいえる水準だったわけですから、その勢いが続いたならば、116400GVの中古最安値が2007年デビュー時の“180万円超え”となる可能性は十分にあったわけです。 　そうなると、長年「デビュー時だけ高かった」という存在だったミルガウス116400GVが、15年かけて「後の中古相場がデビュー時水準超え」となるドラマが見られたはずでした。 　しかし、3月上旬ぐらいから、それまで派手に上昇していた腕時計に異変が生じます。そして、3月下旬には人気モデルを中心に多くのモデルが下落。1月水準並に戻るという動きとなったのです。 　そして、この116400GVもそれらと同じように下落。結果、現在の中古最安値は約129万円と、1月上旬並みに戻ってしまったのです。 　今年になって、勢いづいていたミルガウス116400GVは、2007年水準超えとなるぐらいの勢いがあったのですが、そうなる直前に下落したことにより、180万円から遠ざかってしまったわけです。 　デビュー以来、「デイトナよりも高い水準」から「大暴落」となったり、「アベノミクス以降も上昇しない」など、なにかと特徴ある値動きを見せるミルガウスですが、今回もまた、「2007年水準がようやく射程圏内」となったところで下落。クライマックスかと思ったら、全然違うストーリーが展開される映画のようであります。 文／斉藤由貴生 　1986年生まれ。日本初の腕時計投資家として、「腕時計投資新聞」で執筆。母方の祖父はチャコット創業者、父は医者という裕福な家庭に生まれるが幼少期に両親が離婚。中学1年生の頃より、企業のホームページ作成業務を個人で請負い収入を得る。それを元手に高級腕時計を購入。その頃、買った値段より高く売る腕時計投資を考案し、時計の売買で資金を増やしていく。高校卒業後は就職、5年間の社会人経験を経てから筑波大学情報学群情報メディア創成学類に入学。お金を使わず贅沢する「ドケチ快適」のプロ。腕時計は買った値段より高く売却、ロールスロイスは実質10万円で購入。著書に『腕時計投資のすすめ』（イカロス出版）と『もう新品は買うな！』がある