うつ病と認知症の症状は似ている? 中年世代にも広がる“薬で治らない”メンタル不調
給料は上がらず、タスクと責任ばかりがのしかかる中年世代。ストレスゲージは常に高値安定。誰かがメンタル病んで休職なんて話を聞いても、「あぁ、またか」「明日はわが身か?」と思う人も多いだろう。
しかし、メモリークリニックお茶の水の理事長で医学博士の朝田隆先生は、「メンタル不調の診断は簡単ではなく、さまざまな可能性がある」という。
「うつ病だと診断されて治療をしてきたけれど、実は若年性認知症だったという人がいれば、若年性認知症の疑いがあって調べてみると、発達障害があって周囲から孤立しメンタル不調が出たという人などいろいろです」
メモリークリニックお茶の水は認知症を専門とし、朝田先生は認知症予防と脳画像診断の第一人者。うつ病だと思ったら認知症!? 認知症だと思ったら発達障害⁉︎ いったい、どういうことなのか?
一般的にうつ病は、真面目で一生懸命、律儀で責任感が強い人のほうがなりやすいと言われる。
「こうした性格を『メランコリー親和型』あるいは『執着気質』と言い、昔からうつ病になりやすいことがわかっています。いわば『保守本流』のうつ。希死念慮を抱き、自殺しやすいのもこのタイプですが、一方で薬が効きやすい。きちんと医者に行って服薬治療をしながら休養をすれば、数か月で回復していきます」
ただメランコリー親和型の人は、真面目なだけに弱音を吐かず、我慢強いため発見が遅れがち。周囲の人は「ミスが増えた」「元気がなくなり笑顔がなくなった」「好きだったことにも興味を示さない」「不眠がち」といった変化に気づいてあげるのが大切だ。
が……実は、これらの症状は認知症の初期症状でもあるという。
「65歳以上なら真っ先に認知症を疑いますが、40代50代だとうつ病や精神的ストレスと診断されることも多い。うつ病だと診断されて2〜3年、精神科に通い、抗うつ薬を飲み続けてもよくならない。そのうちに、記憶や認知に問題が出てきて認知症のテストをすると、すでに中度にまで進行していた……というケースは珍しくありません」
認知症は初期に発見し、適切に対処していけば進行を遅らせることができる。しかし、 “誤診”によって、その大切な時間が奪われてしまうのだ。
「認知症というと70代80代の高齢者がなるものと思っているでしょうが、27歳で発症したという人もいます。それは稀なケースだとしても、働き盛りの40代50代でも無関係ではありません。まずはそれを認識してほしいと思います」
他方で、若年性認知症ではなく、真面目でも几帳面でもなくメンタルに不調をきたすケースもあるという。仕事のやる気は出ないが、遊びや趣味は楽しめる、というタイプで、いわゆる「新型うつ」と呼ばれるタイプだ。
「医学的には『逃避型抑うつ』『ディスチミア親和型うつ病』などと呼ばれるタイプで、“保守本流のうつ“とは症状が違います。従来型のうつは、常に気分が落ち込んでいるし、お酒を飲んでも気持ちは晴れず、酔うこともできない。一方、新型うつ病は飲酒を含め楽しいことはきちんと楽しむことができる。また、眠れないといううつ病の典型症状がないのも特徴です」
加えて、もう一つの大きな違いは、従来のうつ病が「なにもかも私が悪い」と自らを責めがちなのに対し、新型うつ病は「悪いのは会社や上司。自分は悪くない!」と、あくまで他罰的であること。
「調べてみると、自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症といった発達障害が見つかることがあります。周囲とコミュニケーションがうまくいかず、トラブルがおこりがちです。そこで『私は理解されていない』『自分は評価されていない』という不満や疎外感から、メンタルの不調を引き起こすわけです」
新型うつは抗うつ剤があまり効かない。そのため、カウンセリングなども併用した治療が必要になるそうで、その対処法も異なるのだ。
従来型のうつ病なのか、若年性認知症なのか、はたまた新型うつなのか? いずれにせよ、「早期に見極めることが大切」なのは間違いない。
働く人のメンタルヘルスの不調を未然に防ぐため、国も2015年12月から50人以上が働く事業所でストレスチェックを義務づけている。が、このストレスチェックの効果について、朝田先生は懐疑的だ。
確かに、「眠れない」「元気がない」と正直に書いて、会社にメンタルが弱い人間だと評価されたくないと考える人はいるだろうし、正直、「めんどくさい」と適当に答える人もいるだろう。
「また、新型うつの人は『仕事の内容は自分に合っている』とポジティブに答えるでしょうし、『よく眠れない』ということもない。どうしても、現状のストレスチェックではスクリーニングできないんです。また、ストレスチェックを受けたところで、診断は出せないのが現状。産業医の多くが内科医で、脳の疾患やメンタル不調に対しての知識や理解が追いつかないという根本的な問題もある」
うつ病も嫌だが、若年性認知症もおそろしい……。どのケースでも治療の第一歩は「病気を自覚すること」。まずは「メンタル不調もいろいろ」と知っておくことが大切なのかも。
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うつ病の症状は認知症の初期症状と酷似
対処法が異なる新型うつ
ストレスチェックの問題点
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