街の運を引き寄せるコツとは
質問に受け答えする、漫画家・清野とおる氏
清野:あとやっぱり「神様」ですかね。今回も編集者の井野さんと3人で、行く先に神様がいたらお参りするようにしていました。そうするとやっぱり、ちゃんと面白いことや不思議なことがあって、その後にいい出会いがあったりする。
昔は偶然で片付けてた時期もあったんですけど、これはもう必然だと。いろんな街に行くたびに、目が合った神様には敬意を表するようにしています。別にスピリチュアル的な意味ではなくて、「街の大先輩」みたいな感覚ですね。
パリッコ:お参りすると、ガラッと空気が変わった感じがありますよね。
清野:逆に、街に対して欲深く前のめりすぎると、かえって何も起こしてくれなかったりする。聖蹟桜ヶ丘では、最初は一切無欲無心でいったから、いいお店に出会えました。でも、あまりに流れが良すぎて、しかもコロナで久々の飲みということで、後半は前のめりになっちゃったんです。そしたら最後に行った店がひどくて。ビールは不味いわ、店内で放し飼いされていた犬の毛が衣服や体中にまとわりつくわ、外に出たらどしゃぶりだわ、最終電車が人身事故で止まるわ、もう踏んだり蹴ったり。街からちょっとビンタを食らったんですよね。お前ら、良くないぞって。
聖蹟桜ヶ丘駅で起きたトラブルに、呆然とする清野とおる氏(※書籍『赤羽以外の「色んな街」を歩いてみた』より、以下同)
パリッコ:ありがたいといえば、ありがたいけどね。あの店がなかったら、なんか普通によかった話になってただけだから。
清野:鶯谷で幻のような靴屋に出会ったのも、連載のことはいったん忘れて、僕がたまに利用している中華居酒屋を二人に案内して、その帰りしなでした。何度も通っているはずの道なのに、あんな靴屋さん、初めて気づきましたよ。
パリッコ:明日にはなくなってるんじゃないの?っていう幻のような雰囲気の店で、店名を見たら「シンデレラ」。そこからはぐんぐんストーリーが加速して。
清野:無心無欲ののちに、街がプレゼントしてくれるんですよ。お前ら、そういう心持ちなら良いよって。
ーー百戦錬磨のようなお二人ですが、Kの街飲みがお蔵入りになっていて、意外でした。
パリッコ:そうですね。11回行ったうち1回だけネタにならなかった街がKでした。そもそも清野さんと飲み歩いてるから、ネタになる確率が異常に高いんですよね。Kは、一軒目に入った店が、ちっちゃいカウンターだけの酒場で、40分も待たされて出てきた餃子が真っ黒に焦げてたんですよね。面白いというより、普通にテンション下がっちゃって。
清野:「うち取材とか絶対NGなんで」と拒否されたうえに「餃子がうまいよ」って言うんで一応頼んだら、手で生地をこねだして、え、今から生地をつくるの?って。散々待たされた挙句、冷凍餃子以下の駄餃子が出てきましたよね(笑)。
パリッコ:どうしてアレをあんなに自信をもって出せるんだろう。いや、内心「やばい、焼きすぎた!でもまた作るの時間かかるしな〜……出しちゃえ」とか思ってたのかもしれない(笑)。
ーーヒドすぎて逆に気になる店ですが……。あとで、ネットで口コミ評価を調べたりしませんでしたか?
パリッコ:しなかったな。その時は本当に嫌いになっちゃった(笑)。
清野:一軒目からカチッとハマらないと、ずっとボタンの掛け違いのようなことが起きるんです。一軒目でカチッとハマれば、そこからは、エスカレーターにのぼるように、自然に出会うべき人と出会って、最終的には良い街だった、面白かった、となるんですけど。Kはもう最初の一軒目が違ったというか。もうこれ以上も何もないなって割と早い段階からわかりましたよね。