聖蹟桜ヶ丘のスナック「ペペ.V」客のクセが強すぎる名店/清野とおる×パリッコ
「東京都北区赤羽」シリーズで知られる漫画家、清野とおると、酒場ライターのパリッコが、「赤」以外の色の名前がつく駅や街でただただ飲み歩くだけの当連載。今回の舞台は「桜」色の街、「聖蹟桜ヶ丘」。 後編も、たっぷりとソーシャルディスタンスをとってお送りします!
※取材は新型コロナウィルスの影響による緊急事態宣言が解除された直後の7月上旬に、おそるおそる行われました。
久々の「酒場」と「街」を堪能し、駅前まで戻ってきた我々。駅周辺では、気になる店がいくらでも見つかる。本当にいい街だな、聖蹟桜ヶ丘。
そんななか、我々の心を強烈につかんだのがこの看板だった。
パリ:この看板、異彩はなってますね~。清野さん、ここ、安全な店だと思います?
清野:どうだろう(笑)。でも、入らないとおさまらないほど気になる店ではありますよね。
なんてプロファイリングをしばし楽しんでいたら、サラリーマンのふたり組が我々のいるエレベーター前にやってきた。すかさず「どちらにいらっしゃるんですか?」と聞く清野さん。すると彼らは、3階にあるスナックが目当てとのこと。「どうぞお先に」と先をゆずり、あらためて、5階のペペ.Vを目指すことにした。
上階に向かっていると、なぜか3階でエレベーターが止まる。そして乗りこんできたのは、先ほどのふたり組。どうやら、目当ての店が休業していたようだ。じゃあなんで上に向かうエレベーターに乗ってきたのかというと、「じゃあ、ペペ行くか」となったとのこと。どんだけこのビルに信頼を置いてるんだ!
というわけで、
ソーシャルディスタンスも意識され、入り口も換気のために開け放って営業中。そういう気づかいが、今は少しの安心につながるのでありがたい。
これを我々のテーブルまで届け、そのままトイレに行ったマスターを見て清野さんが言う。「このペペロンチーノ、マスターがトイレから戻るまでに瞬殺で食べきってビックリさせません?(笑)」。
トイレから戻ったマスターに「いや~、美味しすぎて一瞬で食べちゃいましたよ」と伝える清野さん。
飲み屋って、やっぱり楽しいな~!
実はこの日、それぞれ緑と赤の服を来てきたパリッコの編集井野氏を見た清野氏が、「今日は黄色い服をきてる人を探して、信号機カラーの写真を撮るのを目標のひとつにしちゃいましょうか」と言っていた。まさかこんな最高の店でそのピースがカチッとハマるとは。
※写真だとちょっとわかりづらいけど、マスターのアロハシャツはそれは鮮やかな黄色でした
カチッとハマるといえば、このペペ.V、我々が入店したときは落ち着いていたものの、その後すぐに満席となった。そこに集まっているお客さんたちの個性が強烈すぎて、もはやその磁力に引き寄せられたとしか思えない。
入店時に一緒になったサラリーマンふたり組。隣の席になったのでいろいろと話を聞かせてもらっていると、ひとりが井野氏の上司の親戚だったことが判明したり、なんだかここで出会った必然性を感じるようでおもしろい。
もう片方の方の趣味が俳句だそうで、「今日の出会いの記念に、是非一句詠んでいただけませんか!?」とお願いすると、「え~? 今ここでかよ~」などと言いつつも、
【今日は明日 明日は悲しき追うばかり 桜さらさら歌うこのまま】
【拡げては酔うばかりなり両袖に 多摩の桜の卯月追うもの】
どちらも、ペペ.Vに勤める女性店員さんを「桜」にたとえて詠んだという名句だ。
パリ:ものすっごいテンションの高い酔っ払いのお姉さん、突然奇声をあげるゲイっぽいお兄さん、カウンターのいちばん隅でひとり静かに飲んでいるのが逆に大物っぽいお兄さん、そして二句詠んでくれたサラリーマン。盛り沢山すぎじゃなかったですか? ペペ.V。
清野:ガチャガチャとっ散らかってるようで、絶妙なバランスで成りたってましたね。
パリ:きっとコロナがなければ、絡みまくりの絡まれまくりでしたよね!
運命の出会い「ペペ.V」
強烈すぎるお客の個性に圧倒される
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1978年東京生まれ。酒場ライター。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。ライター・スズキナオとのユニット「酒の穴」としても活動中。X(旧ツイッター):@paricco
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