メダカすくいに救われた「水道橋」の夜/清野とおる×パリッコ
「東京都北区赤羽」シリーズで知られる漫画家、清野とおると、酒場ライターのパリッコが、「赤」以外の色の名前がつく駅や街でただただ飲み歩くだけの当連載。
今回の舞台は「水」色の街「水道橋」。メンバーはおなじみ、清野とおる、パリッコ、SPA!編集部井野氏に加え、その先輩である編集部牧野氏の4名。前回に引き続き、たっぷりとソーシャルディスタンスをとりつつお送りします!
編集部注:取材は緊急事態宣言解除後の2020年10月に行われました。また外出自粛要請の出ているエリアにおいて、不要不急のおでかけはお控えください。
水道橋といえば、多数の大学が建ち並ぶ学生街。かくいう筆者の僕、パリッコも、水道橋にビル型キャンパスのある「日本大学経済学部」の出身で、多感な時代に4年間通った経験がある。
が、思い出の街か? と聞かれればまったくそんなことはなく、典型的なポンコツサボり学生であった僕は、あの頃って日々一体何してたんだろう? ってくらいに水道橋に関する記憶が薄い。っていうかそもそも、どっちかというと友達が多く住んでいた高円寺あたりで、日々飲んだくれてたからなんですけどね。
清野とおる(以下、清野):水道橋、大通りに我々のそそられるようなモノが何も無くて、裏道なら何かあるかなと思って潜り込んでみたものの何もなくて、大通り戻って、また裏道潜って……さっきからそのくり返しですね。
パリッコ(以下、パリ):はい。考えてみたら僕自身大学生の頃なんて、「味のある酒場で飲みたい」とか「クセのある大将やお客さんと出会いたい」なんて思わなかったっすもんね。安くお腹いっぱいになれて、酔っぱらえれば良かった。街全体がそのニーズに応えてる感じで、学生にとってはいい街なんですよ。間違いなく。ただ……(笑)。
清野:「あ、今回は何もないまま終了だな」と、さっきすでに諦めたんですけど。
パリ:わはは! というかもうここ、水道橋じゃなくて神保町ですよ。黙々と歩いてたら。どうします? 戻ります?
清野:……進んじゃいましょう!
パリ:はい! スタートが水道橋だったことは間違いないということで。
特に興味を惹かれる店を見つけられないまま、気がつけば小一時間ほど街を徘徊していた。全員のムードはそろそろ、「いいかげんどこでもいいから一杯やりたい」になっている。
そこで思い出した。そういえばこの近くに、以前別の媒体で取材をさせてもらった、ほんのりと変わった飲み屋があった。店名は確か「良心的な店 あさひ」。店内にプラモを組み合わせたようなオブジェがずらりと並び、メニュー名がなんだか変で、異様に安く、そして気合が入ってるんだか入ってないんだかわからないような飄々とした店主のキャラクターがなんとも楽しい店だった。
赤羽を中心に猛者を相手にし続けてきた清野氏からしたら、なんてことのない“妙さ”の範疇ではあるだろうけど、むしろいったん酒を飲んで落ち着くにはぴったりの店かもしれない。というわけでメンバーに提案し、向かってみることにする。
と、絶妙のタイミングで井野氏の先輩である牧野氏が「おもしろそうだから」という理由のみで合流。今回はここから、メンバー4人で徘徊することとなった。
うんうん、相変わらず街のなかにあって異彩を放ってる。というか、数年前に来た時より格段にカオス度がパワーアップしてるな。あ〜、落ち着く〜。
清野:小学生時代、自転車で知らない街まで遠出して、地元に帰ってきて知ってる建物を最初に目にした時の安堵感を思い出しちゃいましたよ。初見の店なのに。パリッコさんの言うとおり、「ありがちな変な店」という感じですね。路地に入ったと同時に「なんかやらかしてる!」ってわかりましたもん。
パリ:一目瞭然の異質さ(笑)。
清野:でも異質なのは外観だけで、ふつうに優良店ですよね。
パリ:異常に安いし、おつまみの美味しすぎないけど適度な安心感もいいし。隣のサラリーマングループも、普通〜のテンションで楽しんでますね。
と、和やかに盛り上がる我々一行だったが、ひとつだけ気になることがある。それはもちろん「メダカすくい」の要素。自分の記憶に間違いがなければ、数年前に来た時、この店には確かに飲食店の要素しかなかった。
思い出の街のはずが、黙々と歩くのみ
異様に安い「良心的な店 あさひ」
1978年東京生まれ。酒場ライター。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。ライター・スズキナオとのユニット「酒の穴」としても活動中。X(旧ツイッター):@paricco
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