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安倍元首相を吉田茂元首相に匹敵すると誰もが認めるであろうか/倉山満

安倍氏を吉田氏に匹敵すると誰もが認めるであろうか

 戦後の国葬は、吉田茂ただ一人。長期政権を築き、敗戦日本に独立を回復させた。政権後半の老害ぶりはともかく、実績そのものに異論はなかった。さて、ここで問題である。安倍氏を吉田氏に匹敵すると誰もが認めるであろうか。確かに首相在任期間は凌駕する。では、サンフランシスコ条約締結のような、わかりやすい実績があるだろうか。  別に安倍氏を腐したい訳ではない。安倍氏以前に最長不倒だった佐藤栄作も、沖縄返還という誰もが否定できない実績がありながら、国民葬となった。国葬ではなく国民葬となったことで、時の三木武夫首相は暴漢に襲われているほどだ。国葬だと憲法の政教分離との関係で宗教色を出せなくて味気ないから、国民葬にしただけなのに。

気まぐれに乱発されている国民栄誉賞のようにならないか

 このように言い出すと、中曽根康弘は? 生きている人で名前を出して恐縮だが、小泉純一郎元首相の時はどうするのか? とキリがない。  ここで危惧するのは、国民栄誉賞のようにならないか、だ。国民栄誉賞は、王貞治選手がホームラン世界一となった時、時の福田赳夫内閣が導入した。その後は、気まぐれに乱発されている。要するに、「なぜこの人が取れたのに、この人が取れないのか」だらけなのである。  絶対評価で安倍氏を評価するのは良い。ただし相対評価で堪えうる後世への基準を、岸田内閣は設けるべきだろう。

法的根拠が無いから実行が難しいと言われていた国葬

 そもそも国葬は法的根拠が無いから実行が難しいと言われていた。ところが、いとも簡単に乗り越えた。記者会見でもスラスラと「法的根拠は内閣府設置法第4条3項33号」「内閣法制局とも調整した」と自信満々に語っていた。  内閣府設置法第4条は、内閣府の所掌事務を定め、その数148個! その中の3項33号に「国の儀式並びに内閣の行う儀式及び行事に関する事務に関すること(他省の所掌に属するものを除く。)。」とある。政府が国葬を行える法律的根拠だそうだ。ここに「儀式」とある。岸田首相が「国葬儀」と強調した理由だ。  まさか岸田首相や側近が「何でもいいから根拠法を持ってこい」と言い出し、法制局がテキトーなやっつけ仕事で出してきたのではないかと疑りたくなる。
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岸田首相が国葬に自信満々な根拠は、法制局からお墨付きを得たから
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1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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