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疎外されがちなおっさんも、おっさん同士で疎外されないよう必死に生きている

一方、全く平和な中学時代を過ごした僕は……

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素材/oyukihan’s blog 「漫」パワー充電所 

 そうなると困ってしまうのが僕だ。なにせ中学が全く荒れていなかったのだ。片田舎の平和な中学だ。不良とかヤンキーはいたけど、それもまあ平和的でとても荒れているなんて表現できるものではなかった。  けれども、いまこの場を支配するのは「中学がどれだけ荒れていたのか」という価値観だ。なんとしても話題に乗り遅れないよう、中学が荒れていたエピソードをひりだすしかない。 「うちの中学も荒れていたんですよ。体育教師が出張でいない時、男子はサッカーするように言われていたんですけど、勝手に脱衣サッカーにしちゃってですね、点を入れられた方が一枚脱ぐの、そのうちどちらもパンツだけになっちゃって。雪が降るような日にですよ。ほんと、荒れていた」  僕の精一杯の荒れていたエピソードに、他の面々は「それはちょっと違うんじゃ?」という表情を見せた。完全なる疎外を感じる。 「OBがバイクでグラウンドに入ってきて旗を振っていたりするんだよな。で、授業中なのにめちゃくちゃ盛り上がる。犬とOBはグランドに入ってくると盛り上がる」 「近隣の商店街では中学校名を名指しして丸ごと出入り禁止になっている。万引きが桁外れだから」 「登校したら警察がきて黄色いテープで教室を規制していた。なにがあったのかの説明はない」 「教師の車の屋根がぜんぶ人型に凹まされて大騒ぎになったことがあった」

どうあがいてもしょぼい話しかひり出せない

 本当に法治国家なのだろうかと疑うばかりのエピソードが飛び出して盛り上がってくる。人はどうしてここまで中学が荒れていたエピソードで盛り上がれるのだろうか。僕も負けじと荒れていたエピソードをひりだすのだけど、根本的に荒れていないのでやはり苦しい。 「うちの中学も荒れていましてね。文化祭の展示に絵画を展示する企画をクラスでやったんですけど、まあ、そんなの誰も見に来ないじゃないですか。見張りの人間まで他のクラスの展示を見にいっちゃって、教室が無人になる時間がかなりあったんですよ。いよいよ文化祭が終わり、さあ片付けるぞというときになって、教室のど真ん中に人糞があったんですよ。ホカホカの人糞が。誰かが我慢できずに無人の教室でしたんでしょうね。ホント、荒れていた」  また、一同が「それはさすがに違うだろ」という視線を向けた。 「文化祭は他校の不良が攻めてくるんだよな」 「そうそう、逆に他校の文化祭に攻めに行ったりな」  僕のちょっと違うエピソードをダシに、やはり荒れているエピソードで盛り上がる始末。疎外されることない共通言語を用いたおっさんコミュニティにいながら疎外される悲しみ。どうして僕の中学は荒れていなかったんだ。不良の山元や高田、高橋も、あのあたりがもっと荒らしてくれればこんな気持ちになることなんてなかったのに。  しかしながら、そのような疎外感を感じつつも、ひとつだけ気になることがある。遠山さんだ。   「校舎の中をバイクで走るやつがいたりね」  というエピソードを話した遠山さんだ。前々から思っていたけど、遠山さんの中学荒れていたエピソードだけちょっと具体性がないというか、スクールウォーズ感が強い。現実味が薄いのだ。
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遠山さんの嘘くさいエピソードに疑問を呈し
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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