更新日:2023年02月26日 09:26
お金

「物価なんて上がらないほうがいい」が見当違いな理由。元日銀副総裁が解説

安くモノが買えると喜んではいられない

 ’81年度~’91年度(’86年頃から’92年2月頃までは「バブル期」に相当)のインフレ率(消費者物価上昇率)の年平均は1.8%でしたが、名目賃金(給与明細に書かれている給与)は、平均3.4%で伸びていました。皆さんがもらうお給料は物価以上に上がっていたのです。  そのため、人々は毎年より多くのモノを消費できるようになり、その暮らしぶりは毎年豊かになっていきました。このように、名目賃金上昇率からインフレ率を引いた値(実質賃金上昇率といいます)がプラスのとき、人々の生活は豊かになっていきます。  それに対して実質賃金上昇率がマイナスのときは、消費を減らさざるを得ず、暮らしは悪化します。  ’98~’12年度の日本はデフレになりました。この期間のインフレ率と名目賃金上昇率の年平均は、それぞれマイナス0.2%とマイナス0.5%へと低下しました。物価よりも名目賃金の下げがキツかったため、人々の暮らしは悪化したのです。  デフレのおかげで、安くモノが買えると喜んではいられません。安く買える理由は、低賃金をもたらすデフレにあるのです。

今はコスト増による「悪いインフレ」期

 ただし、物価が上がることのほうが、常にいいというわけでもありません。望ましいのは、モノやサービスに対する需要が増加することによるインフレ(需要牽引型インフレとかディマンド・プル型インフレといいます)であることです。  それに対して、ロシアのウクライナ侵略後に起きたインフレは、エネルギーや食料価格の高騰という費用要因による「コスト・プッシュ型」になります。実質賃金の低下をもたらすため、「悪いインフレ」といわれるのです。  だからこそ、一時的にデフレ時代を懐かしんでしまうのでしょう。良いインフレに転換すれば、あなたの考えも変わるはずです。
次のページ
岩田の“異次元”処方せん
1
2
3
東京大学大学院経済研究科博士課程退学。上智大学名誉教授、オーストラリア国立大学客員研究員などを経て、’13年に日本銀行副総裁に就任。’18年3月まで務め、日本のデフレ脱却に取り組んだ経済学の第一人者。経済の入門書や『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)、『自由な社会をつくる経済学』(読書人)など著書多数

記事一覧へ
おすすめ記事