更新日:2023年04月22日 17:27
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国会で審議入りの「入管法改正案」。難民認定申請者たちの悲痛な思い

入管は一時帰国を勧めるが、再入国できる保証は「ありません」

ナビーンさんは2か月おきに仮放免の更新手続きのために東京入管に出頭している。それが何十回も繰り返されていることで、絶望的な気分になるという

ナビーンさんは2か月おきに仮放免の更新手続きのために東京入管に出頭している。それが何十回も繰り返されていることで、絶望的な気分になるという

 ところが、入籍からわずか4か月後の2017年2月28日、ナビーンさんは仮放免の更新手続きのために東京入管に出頭すると、その数年前に申請していた難民認定申請の不許可を告げられ、同時に「今日は家に帰れない」とそのまま収容されてしまった。10か月後の12月に仮放免されるも、入管はナビーンさんに提案をした。 「一度、本国に帰って、数年後に配偶者ビザで再入国してはどうか」  これは多くの仮放免者に入管が提示する提案だが、命の危険がある本国に戻る選択をする人は極めて少ない。加えて入管は、在留資格のない外国人の収容と帰還を管轄する「収容部門」と、彼らの入国を管轄する「審査部門」とに分かれるが、収容部門の職員が再入国について言及することを額面通りに受け止める人もまた少ない。事実、なおみさんと入管職員は以下のやり取りを交わした。 「夫が一度国に帰って、日本に再入国できる保証はあるのですか?」 「ありません」  夫妻は「帰国はしない」と決めた。  その強い意志がありながらも、ナビーンさんの精神状態は不安定だ。働くことが許されない仮放免では生きがいを見つけることができず、再収容の可能性もある。ナビーンさんは家にひきこもるようになり、友人からの電話にも出ず、突然「生きていたくない!」と包丁で首を切ろうとしたこともある。精神科では「うつ病」と診断された。

スリランカに戻れば、投獄や拷問が待っている

 このままでは八方ふさがりになる。夫妻は2022年11月30日、難民申請不許可の取消しと退去強制令書の取り消しを求め東京地裁に訴状を提出した。2023年2月21日の第1回口頭弁論でナビーンさんはこう意見陳述した。 「仮放免の私は働くことが許されません。お金がないからジュース1本買うのもなおみに頼るしかない。移動の自由もないから、入管の許可なく、暮らしている埼玉から東京に行くこともできない。私は今43歳です。このままおじいさんになるまでこの状態が続くのは辛いです」  ナビーンさんに在留資格が出ない理由について、入管は「実子がいないから」と説明している。この説明について、なおみさんも意見陳述で訴えた。 「『実子がいれば』と言いますが、私の年齢では妊娠は不可能です。私たちは今、19歳の次男と母と4人で良好な関係で暮らしています。実子はいなくても家族を築いているのです。夫が通うメンタルクリニックの医師は『一番の薬は在留資格を得ての普通の暮らし』と言われます。どうぞ普通の暮らしができるように在留資格を認めてください」  裁判の後、傍聴に来ていたなおみさんの次男の勇人さん(19歳)に話を聞くと「僕を本当の息子のようにかわいがってくれる、すっごくいい人」とナビーンさんを評価し、なおみさんの母も「とても優しくて穏やかな人」と今後も家族でナビーンさんを支えると話した。  ナビーンさんは、これまで難民認定申請を2回しているが、2回とも不許可となっている。つまり、もし改正法案が施行されたら本国送還があり得る。今年3月30日の集会で、なおみさんは涙をこらえて訴えた。 「もし改正法案が施行され、夫がスリランカに戻されたら投獄や拷問が待っている。私は夫を帰すわけにはいかないのです」
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「実子がいないから」在留資格が下りない!?
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フリージャーナリスト。社会問題や環境問題、リニア中央新幹線、入管問題などを精力的に取材している。『悪夢の超特急 リニア中央新幹線』(旬報社)で2015年度JCJ(日本ジャーナリスト会議)賞を受賞。Twitter:@kashidahideki

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