更新日:2023年04月22日 17:27
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国会で審議入りの「入管法改正案」。難民認定申請者たちの悲痛な思い

「実子がいないから」在留資格が下りない!?

まゆみさん(右)とウチャルさん

まゆみさん(右)とウチャルさん

 まゆみさんの夫のウチャルさん(トルコ出身のクルド人)は兵役から逃れるため2008年に来日した。兵役につけば、クルド人を敵視する現政権下では同じクルド人に銃を向ける可能性もある。それを怖れたのだ。  まゆみさんとは2015年に入籍。ウチャルさんもまた、これまで2回の収容生活(5か月と8か月)を経験しているが、ナビーンさん同様に将来が見えないことに心のバランスを崩してしまった。  ウチャルさんは今、夜になると自宅にいることができない。 「四方を壁に囲まれていると、どうしても収容の辛い記憶がフラッシュバックして…」(ウチャルさん)
ウチャルさんは、狭い部屋で四方の壁に囲まれていると収用経験がフラッシュバックするので、寝る直前まで外で過ごしている

ウチャルさんは、狭い部屋で四方の壁に囲まれていると収容経験がフラッシュバックするので、寝る直前まで外で過ごしている

 ウチャルさんは毎日、寝る直前まで自宅近くの公園でボーッと過ごしたり、近くのコンビニまで出かけたりして時間をつぶしている。 「入管からの審査に関するインタビューでは、実子の有無や別の女生との子供の有無を質問されていたので、もしかして『実子』の存在が在留特別許可の判断基準になっているのか!? と思っています」(同)
ムセンブラ晴佳さん。アフリカ出身の夫との間に3人の子がいる。入籍から6年半もかかって、昨年末ようやく夫に在留特別許可が出た

ムセンブラ晴佳さん。アフリカ出身の夫との間に3人の子がいる。入籍から6年半もかかって、昨年末ようやく夫に在留特別許可が出た

 事実、アフリカ出身の男性、サイ・ムセンブラさんは日本人配偶者の晴佳さんと2017年6月に入籍し、これまでに3人の実子をもうけ、6年半もかかったが、2022年末にようやく夫に在留特別許可が下りている。  だがまゆみさんは「子どもがいるいないの基準で、私たちの人生が決められるのは納得できない。日本人同士でも不妊症のご夫妻はいるし、あえて産まない選択をする人もいる。家庭の形はそれぞれです。夫は私の父(故人)と良好な関係を築き、近所付き合いもある。家族として地域の一員として生きている」と主張する。

「在留資格のない人がいる家族はダメ」と都営住宅から入居を拒否

カタクリ子さんと夫のAさん、そして息子。この家族関係は入管に壊された

カタクリ子さんと夫のAさん、そして息子。この円満な家族関係は入管に壊された

 入管がここまでして在留資格のない外国人を収容や仮放免で苦しめることについて、どの仮放免者も口をそろえるのは「とにかくその苦しさに音をあげて、本国送還を願い出るのを待っているから」だ。今回の改正法案も、まさしく帰国させることを目的にした法案である。 ここで留意したいのは、日本人配偶者がいる場合は、入管は必ず「一度本国に帰れ。少し待てば配偶者ビザなどを得て再入国できる」との空約束をすることだ。  その言葉を信じて帰国した外国人もいる。そのケースで、私の知る限り最も数奇な運命を辿ったのは日本人配偶者のカタクリ子さん(仮名)とその夫のAさんだ。  カタクリ子さんは、2009年のインド留学時代にケニア人留学生と出会い、彼の子を妊娠し、日本で男児を出産。だが数か月後に彼が急死。シングルマザーとして生きるが、2016年、東京都のお台場の祭りに集まっていたガーナ人のなかで、息子をとても可愛がってくれるAさんがいた。  カタクリ子さんはインド留学後に自ら望んでイスラム教に改宗しているが、Aさんの人柄、そして同じイスラム教徒ということもあり、交際を重ねて同年に入籍した。Aさんが仮放免者とは知ったが、結婚して1年も経てばビザは出るはずと信じていた。  Aさんはカタクリ子さんの息子を心から可愛がり、息子もAさんを「ダダ」(パパ)と呼んでなついていた。またAさんは、小学生の集団登校の当番も引き受けたり、サッカークラブの練習を手伝ったりと、地域と関わる姿勢は周囲からも高く評価されていた。  だが2017年5月、仮放免の更新手続きで東京入管を訪れるとそのまま収容された(その後、茨城県の「東日本出入国管理センター」(以下、牛久入管)へ移送)。  夫の収容は、残された家族の生活苦に直結する。家族との唯一の連絡手段である収容施設内の公衆電話で使う国際テレフォンカードの差し入れだけでも月に3万円以上、加えて、食料や施設内の買い物のための現金も入れると5~6万円が消えていく。  カタクリ子さんは家賃が払えなくなり、安い都営住宅に引っ越すために、まず生活保護を受給する。果たして都営住宅に当選するが、入居のために住民票を提出すると「在留資格のない人がいる家族はダメ」と入居を拒否された。次に当選した東京都北区では「『夫と一緒に住まない』との念書を書いてくれたら入居できます」との条件を提示され、「ひどい人権侵害だ!」と思いながらもそれを受け入れるしかなかった。
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「1年くらい待てば再入国できる」という入管の提案に従ったが……
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フリージャーナリスト。社会問題や環境問題、リニア中央新幹線、入管問題などを精力的に取材している。『悪夢の超特急 リニア中央新幹線』(旬報社)で2015年度JCJ(日本ジャーナリスト会議)賞を受賞。Twitter:@kashidahideki

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