更新日:2023年04月22日 17:27
ニュース

国会で審議入りの「入管法改正案」。難民認定申請者たちの悲痛な思い

難民認定申請は「2回まで」で強制送還の対象となる「入管法改正案」

今年2月から入管法改正法案に反対する若者たちが、国会前でスタンディングでの抗議行動を続けている

今年2月から入管法改正法案に反対する若者たちが、国会前でスタンディングでの抗議行動を続けている

 4月13日から、入管法改正法案が衆議院で審議入りしている。同法案は2年前、野党の抵抗、そして国会前で連日抗議行動を展開した市民運動の抵抗により廃案に追い込まれたが、政府は再び同法案を提出し、3月7日に閣議決定された。  同骨子は、2年前に廃案になった法案とほぼ同じ。すなわち、在留資格のない(あるいは失った、あるいは付与されない)外国人が難民認定申請をできるのは2回まで。もし2回目の申請でも不許可の場合、その後3回目の申請に及んだとしても、新たな特別な事情がない限りは有無を言わせずに出身国への送還対象となる。そして、送還拒否した場合は刑事罰の対象になる。つまり裁判を受けたうえで刑務所に服役するということだ。
今年3月30日の集会で入管職員(左)に入管法改正法案への反対署名を手渡す若者たち。署名は2万753筆集まった

今年3月30日の集会で入管職員(左)に入管法改正法案への反対署名を手渡す若者たち。署名は2万753筆集まった

 だが刑務所から出所しても、在留資格がない以上はそのまま入管の収容施設へ移送され、その後も送還拒否を続ければ、刑務所と入管施設での収容を繰り返す生活が待っている。今、この改正法案を怖れるのは、送還忌避をしている約3300人の仮放免者(一時的に収容を解かれている状態)とその日本人配偶者たちだ。  ある入管関係者は難民認定申請の回数制限について、筆者にこう言った。 「日本では、難民申請が不許可になっても、何度でも繰り返し申請することができる。その結果が出るまでは送還できないから、外国人はごねていれば、いつかは難民認定されると読んでいるんです。だから、ある程度の回数で切るという方向性は間違っていない」  だが留意すべきは、在留資格のない外国人に対して入管は退去強制令書(送還命令書)を発布しているが、その99%は素直に帰国していることだ。つまり、自称難民でも就労目的で来日する外国人のほとんどは帰国する。  だが残り1%である約3300人は絶対に帰国しようとしない。帰国すれば、そこには逮捕や投獄、はたまた拷問が待っている。つまりその3300人は「帰らない」のではなく「帰れない」のだ。

政治運動で暴行を受け日本へ避難、日本人女性と結婚

ナビーンさん(左)となおみさん

ナビーンさん(左)となおみさん

 3月30日、参議院議員会館で「入管の民族差別・人権侵害と闘う全国市民連合」(以下、市民連合)が主催した「入管法改悪反対 緊急院内集会」が開催された。仮放免者の夫をもつ日本人配偶者の久保なおみさんと嶋津まゆみさんの2人が登壇した。  なおみさんの夫であるナビーンさんはスリランカ出身。ナビーンさんの父は反体制派の政治運動をしていたが、2003年4月、10人くらいの男に突然襲われ腎機能の悪化を招くほどの暴力を受けた。一緒にいた当時22歳のナビーンさんも腕を骨折する。「このままでは殺される」と怖れたナビーンさんは、ビザの発給が早い日本への逃避を考え、同年12月、留学ビザを携え日本語学校の留学生として来日した。  翌年4月に入学した直後に、ナビーンさんはなおみさんと出会う。だが、夏ころに日本語学校が倒産。転校するための推薦状を書いてくれるはずの校長と経営者は雲隠れした。学生寮も出ることになる。ナビーンさんは倒産のことを入管にも伝えたが、「入管には関係がない」とあしらわれてしまった。 「もしこのとき入管が真摯に対応していれば、夫の今は違っていたはずでは」となおみさんは振り返る。  仲間や親戚を頼って埼玉県や千葉県に移り、千葉県では主に農家の手伝いをするが、2005年12月に1年間有効の留学生ビザが失効し在留資格を失った。だが当時のナビーンさんは日本語がほとんどできず、国に戻るわけにもいかず、入管に出頭するしなかった。  そして2012年12月、警察の自動車いっせい交通取締りでオーバーステイが発覚。2013年3月、東京出入国在留管理局(以下、東京入管。東京都港区)に収容された。  外出禁止に加え、面会はアクリル板越しに30分だけ、加えて、毎週同じメニューの食事にナビーンさんは身心のバランスを崩し、68kgの体重が42kgに落ちた。歯の治療も放置され、「人として扱われなかった」とナビーンさんは振り返る。仮放免されたのは半年後の9月。  2016年8月に再び収容され2か月後に仮放免となり、直後の10月27日になおみさんとナビーンさんは正式に入籍した。  出会いから結婚まで12年もかかったのは、なおみさんが前夫との間にもうけた二人の幼い息子の育児に手がかからなくなるのを待っていたからだ。
次のページ
入管は一時帰国を勧めるが、再入国できる保証は「ありません」
1
2
3
4
フリージャーナリスト。社会問題や環境問題、リニア中央新幹線、入管問題などを精力的に取材している。『悪夢の超特急 リニア中央新幹線』(旬報社)で2015年度JCJ(日本ジャーナリスト会議)賞を受賞。Twitter:@kashidahideki

記事一覧へ
おすすめ記事