GDP3位の日本は、まだ「経済大国」と言えるのか?元日銀副総裁がわかりやすく解説
ではなぜ、日本の一人当たりGDPの国際的順位が下がっているのでしょうか? よく指摘される原因は、「日本の技術革新力の衰えやIT投資の少なさにある」というものです。本当でしょうか。
1990~’21年の労働者の時間当たりの生産性(実質GDPを総労働時間数で割った値)の上昇率を、OECD(経済協力開発機構)のデータをもとに諸外国と比較してみましょう。すると、日本は1.46%で、何かと優等生扱いされるドイツ(1.37%)や英国(1.32%)、フランス(1.14%)をも上回っています。時間当たりの労働生産性はむしろ上がっおり、「技術革新力の衰え」といった指摘は誤りと言えます。
ただし、いくら生産性が高くても、国民一人当たりの労働時間が減少すると、一人当たりGDPの伸び率は低下してしまいます。前号でも取り上げましたが、1990~’21年の期間、日本の国民一人当たり労働時間(年平均)は0.6%の速度で減少し続けました。この減少速度はドイツの7.7倍というすさまじさです。労働時間がすさまじい速度で減少したため、生産性向上の効果を打ち消してしまい、日本の一人当たりGDPの増加率を下げ、国際順位も下げてしまったのです。
このように労働時間が減った理由は3つあります。①少子化が進み、生産年齢人口比率が年率0.6%で減少した(米国は年率0.05%の減少)こと、②雇用市場が悪化して就業率(15歳以上の就業している人の割合)が年率0.08%で低下したこと、③労働時間の長い正社員が減り、労働時間の短い非正規社員が急増したことです。’13年のアベノミクス以降は雇用市場が改善し、短時間労働を選択する非正規の「働く高齢者」が増えた影響もありました。
東京大学大学院経済研究科博士課程退学。上智大学名誉教授、オーストラリア国立大学客員研究員などを経て、’13年に日本銀行副総裁に就任。’18年3月まで務め、日本のデフレ脱却に取り組んだ経済学の第一人者。経済の入門書や『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)、『自由な社会をつくる経済学』(読書人)など著書多数
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