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「首相官邸との関係」に腐心している財務省/倉山満

首相官邸に送り込まれた重量級秘書官

 この丹呉元次官の再来と目されたのが、宇波弘貴(うなみひろたか)氏(’89年入省)だ。
言論ストロングスタイル

( )は入省年次。官邸との関係に腐心する財務省の巻き直し人事か?

 岸田首相は「財務省傀儡政権」「衣の下から増税」と揶揄されてきたが、それは一面にすぎないと本欄では何度も伝えてきた。首相秘書官人事では、筆頭に当たる政務秘書官に、首相の開成高校での後輩にあたる嶋田隆元経済産業省事務次官を据えた。嶋田秘書官は、元事務次官と超大物秘書官の登場で全省庁に睨みが利く。これに対し財務省は、将来のエースと目される課長級の中山光輝(なかやまみつてる)氏のみならず、宇波氏を送り込んだ。その直前の宇波氏は、主計局次長(筆頭)だった。小泉内閣に送り込まれた丹呉氏以上の重量級秘書官となる。  霞が関は年次がモノを言う。嶋田氏は’82年入省で、宇波氏より大先輩だが、そこは最強官庁を自認する財務省。相手が局長を出してくるなら次長、次官を出してくるなら局長、とわざとカウンターパートを下げてマウンティングする役所。「嶋田氏ほどの大物相手なら、宇波くらいの実力者を出さねば太刀打ちできない」が、財務省の論理なのだ。

財務省にとっての二大イシューは「増税」と「日銀人事」

 では、宇波秘書官を通じた官邸へのグリップは成功したのか?  財務省にとっての二大イシューは増税と日銀人事。前者に関しては、防衛費倍増のドサクサに防衛増税を盛り込んだが、政治の抵抗で先送りを繰り返され、しかも額が1兆円とショボイ! 史上最長政権となった安倍晋三内閣に対し、消費増税を押し付けた木下康司氏や岡本薫明(おかもとしげあき)氏が事務次官だった時代とは隔世の感だ。  その木下・岡本の両氏が有力候補と取沙汰された日銀人事で、2人とも日銀入りを果たせなかった。  日銀副総裁(5年後に総裁になる見込み)は事務次官経験者の最高の天下り先でロイヤルロードと言われる。その日銀総裁を、’98年に松下康雄総裁が接待スキャンダルにより任期途中で退任に追いやられて以来、取り返せていない。ちなみに黒田東彦前総裁は財務省出身だが、事務次官ではなく金融畑の財務官出身なので、事務次官経験者の送り込みは、悲願と見られていた。事務次官になる財務官僚は、財政畑の主計局を中心にキャリアを積むので金融は素人のはずだが、そんなことは無視して天下りを押し付ける力がかつての大蔵省にはあった。
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ところが、今の財務省の力では日銀から唯々諾々と説得されてしまう
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1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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