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「首相官邸との関係」に腐心している財務省/倉山満

大蔵省解体が落とした影

 バブルが崩壊したことに日本人が後から気付いた「失われた10年」は、実は大蔵省(現・財務省)にとっても暗黒の時代だった。 財務省 連日のように大蔵省の破廉恥なスキャンダルが暴かれ、マスコミは「大蔵省相手ならどんなバッシングをやっても許される」という、今となっては信じられない時代だった。  あげく金融部門は金融監督庁(現・金融庁)として分離。大蔵省は看板も取り上げられ財務省と改称、今に至る。当時の大蔵省は「律令以来の伝統だ」と抵抗したが、時の首相の橋本龍太郎は無視。大蔵省を解体してしまった。  橋本首相は大蔵省解体のみならず全省庁を大編成したが、この影は今に落とす。橋本行革の狙いは政治主導とそれを実現する首相官邸機能の強化だ。この弊害は大きく、「首相官邸に出入りする一部の政治家と官僚だけで日本の政治すべてを決めてしまう」状態となった。本欄’22年8月2日号では、安倍元首相の国葬問題を取り上げ、なぜ議会や与党に諮(はか)らず、首相は一部の側近とだけ相談し決めてしまうのかと問題視した。たかが国葬と笑うなかれ。この種の政治手法が日常化しているのだから。

「財務省政権」と呼ばれた小泉政権

 そして、今でも最強官庁と言われる財務省も、首相官邸との関係には腐心している。その腐心が7月4日発令の人事から読み取れる。  かの小泉純一郎首相は、5年半に及ぶ長期政権を築いた。多くの省庁が首相秘書官を送り込むが、小泉政権において一貫して秘書官を務めたのが、丹呉泰健(たんごやすたけ)前JT会長。今は読売新聞グループ本社監査役も務める。首相秘書官は、普通は課長経験者が送り込まれるが、丹呉氏は主計局次長(三席)の地位にありながら、官邸に送り込まれた。  将来の事務次官候補と呼ばれた丹呉氏が5年も官邸に張り付いたので、本省人事が大いに乱れた。結果、同期から2人も事務次官を輩出する異常事態となった。しかし財務省は、組織に貢献した者に報いるのが強みだ。小泉政権は「財務省政権」とも言われ、良好な関係を築いた。丹呉氏には官僚の最高ポストの事務次官が用意され、本省人事もそれに合わせて動かした。
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「財務省傀儡政権」「衣の下から増税」と揶揄されてきた岸田首相
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1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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