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「一度舐められた首相」が今後、思うがままの人事を行えるのか/倉山満

解散風の次は改造風が吹き始めた

 私は一貫して「こんな時期に解散し、総選挙に突入したとしたら、おもしろい」と言い続けた。案の定と言って良いのか、岸田文雄首相は見事なまでの腰砕けとなった。
岸田文雄首相 泉健太立憲民主党代表 内閣不信任案

6月21日、岸田首相は「会期末の情勢をよく見極めたい」と解散について含みを持たせた自身の発言を、野党の不信任案提出の動きに対するけん制が背景だったと釈明したが…… 写真/産経新聞社

 誰が反対しても、総理大臣が「反対の閣僚を罷免して全閣僚を兼任の上で衆議院を解散する」と宣言すれば、誰も止めることはできない。日本の総理大臣は衆議院選挙に負けなければ、本人が「辞める」と言わない限り、辞めさせることはできないのだ。  しかし、岸田首相は散々「解散風」を吹かして与野党の衆議院議員を選挙準備に走らせた挙句、「やっぱ、やめた」と、とりやめた。今や「解散権を弄んでいる」との批判が高まりつつある一方、秋の内閣改造に向けて今度は「改造風」が吹き始めた。

解散権が首相の伝家の宝刀と言われる所以

 今後、岸田首相が自ら「辞める」と言いたくなるような圧力が加わるだろうか。  そもそも、もし岸田首相がこんな時期に衆議院を解散したら、何が「おもしろい」のか。政治のセオリーに外れているからである。  政治はスケジュールで動く。岸田首相が政権の座を維持する次の関門は、来年9月に予定されている自民党総裁選だ。その時に多数派でいる為には、その前に解散総選挙を打って、味方を一人でも多く増やしたい。「政権は、解散をすれば強くなり、内閣改造を繰り返せば弱くなる」と言われる。これは、例外はあるが、一般論としては正しい。なぜなら、解散とは衆議院議員全員の身分を失わせることであり、代議士は本能的に恐れる。その上で「自分を当選させてくれた総理」には感謝するし、勝たせてくれる総理の下で選挙を戦いたい。解散権が首相の伝家の宝刀と言われる所以である。

岸田首相にとって適切な解散の時期

 では、岸田首相にとって、解散の適切な時期はいつか。来年の6月、つまり来年の今ごろである。通常国会が終わるタイミングで解散、総選挙で勝利をして、総裁選に臨みたい。  逆算すると、今年の今の時期は何をしなければならないか。「改造風」である。今年の8月で今の岸田内閣の大臣任期が1年となるので、9月が改造の時期だ。ほっといても、大臣になりたい政治家はソワソワする。今ごろになって「改造風」を吹かせるなら、何の為の解散風だったのか。来年なら衆議院議員は前の解散から3年目だが、今年だと任期半分の2年も経っていない。これでは、何がしたかったかわからない。仮にこの6月に解散しても、来年の自民党総裁選まで1年以上、どうやって政権を維持するつもりだったのか。
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第四派閥の「一度舐められた首相」が、思うがままの人事を行えるのか
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1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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