仕事

上司に媚び、“格下”を徹底的に潰す「問題社員」。自分が“特別な存在”だと確信する心理とは

取材を終えて:被害者に寄り添う姿勢を

 マスメディアは自己愛性パーソナリティ障害の人を「病んでいる人」として捉え、同情的な視点で報じるものが多いように思う。  確かにそのような一面もあるのだろう。配慮は、必要ではある。一方で私(吉田)が取材をしていると、被害を受ける人の精神的な苦痛は深刻に見える。重度の精神疾患になり、失意の退職をしたり、離婚をしたりするケースもある。  マスメディアには公平な社会や人権が守られる社会をつくる責任がある以上、被害者に寄り添った姿勢で伝えていくべきと思い、そのような視点での取材を試みた。

最も仕事ができないが、最も尊大で横柄

 私も数年前、20代後半の編集者と仕事をするうえで苦しんだ。1990年から300人を超える編集者と組んできたが、最も経験が浅く、仕事ができないのだが、最も尊大で、横柄な態度だった。数年のキャリアということもあり、仕事のミスや問題が続出していた。それでいながら、かたくなに自分を正当化する。  こちらや取材相手に必ず責任を転嫁する。それを指摘すると激しく興奮し、反論をしてくる。私が論破をすると、怒りのあまり、会話ができない状態になる。30年近い経験の差があるので、力の差は歴然としている。勝つまで議論をしかけてくるかのようだった。上司や役員には愛想がよく、まさに別人となる。  こういう編集者は、約300人の中でたった1人だ。私は、経験が豊富であるので受け流すことができるが、20~30代の人ならば心が病んでしまうかもしれない。さまざまなとらえ方ができるのだろうが、パワハラや職場での人権が問題視される今、あらためて社会で議論をすべきテーマではないだろうか。 <取材・文/吉田典史> 【春日雄一郎】 精神科医。2005年、東京大学医学部卒業。NCNP(国立精神・神経医療研究センター)病院、永寿会恩方病院精神科医長などを経て、2014年に府中こころ診療所を開設。その後、医療法人化し、医療法人社団HeartStation理事長に就任。2021年に分院「こころ診療所吉祥寺駅前」を開業。メンタルクリニックの現場で、心療内科・精神科の臨床に取り組み続けている。精神保健指定医、日本精神神経学会精神科専門医。YouTubeで「こころ診療所チャンネル」を開設し、うつ病、適応障害、パニック障害、発達障害、自己愛性パーソナリティ障害などの解説やその対策を紹介している。
ジャーナリスト。1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006年より、フリー。主に企業などの人事や労務、労働問題を中心に取材、執筆。著書に『悶える職場』(光文社)、『封印された震災死』(世界文化社)、『震災死』『あの日、負け組社員になった…』(ダイヤモンド社)など多数
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