田原総一朗と上杉隆が語る「五輪汚職と神宮外苑再開発」
神宮外苑に巨大利権を生み落とした“錬金術”
田原 特に、許認可事業のテレビは政府の中にいるようなもので、カルテルの最たるものと言っていい。動かないだろうね。それでも、僕はそうした縛りの中で、権力とどこまでケンカできるかが面白いと思うんだ。
上杉 現在、神宮外苑の再開発に伴い3000本の樹木が伐採の危機に瀕していますが、実は、この再開発は五輪招致を契機に動き出したのです。
明治神宮は100年前に明治天皇・皇后を崇敬するために、全国の有志によって造営され、日本中から選りすぐった樹木が植樹された。つまり、再開発によっていま樹齢100年を超える巨木を含む木々が伐採されようとしている。
都市の緑は非常に大事であり、一度伐ってしまったら、その姿は永遠に失われてしまうでしょう。だから、米国人実業家のロシェル・カップ氏や作家の村上春樹氏、作曲家の故・坂本龍一氏などがこぞって反対の声上げたわけです。ところが、保守から反対の声が聞こえてこない。明治天皇を崇敬する外苑の樹木伐採には、本来、保守が真っ先に反対して然るべきでしょう。
田原 日本の保守は米国との戦争に敗れて以降、本来の姿から完全に捻じれて親米保守と化した。一方で、リベラルが反米となり、こちらも捻じれている。今の日本の保守は現状肯定だから、対米従属にも何ら疑問を抱かない。現状肯定のはずの保守が外苑再開発に反対しないのは、一方で経済成長を重視しているからです。
上杉 保守を自認していた故・石原慎太郎元東京都知事は、2016年の五輪招致に際して、外苑には手を着けようとしなかった。実際、IOC(国際オリンピック委員会)に提出した「招致立候補ファイル」でも、メインスタジアムは臨海地区の晴海に新設する構想で、神宮外苑に巨大な新国立競技場を建てる考えはなかったのです。
田原 石原さんの思い描いた東京五輪とは、どんなものだったのだろう。
上杉 1度目の五輪が「世界クラブへのデビュー」だったのに対して、2度目の五輪は「アジアの都市のリーダーとして、成熟を訴える」と考えていました。だから、石原の五輪は、レガシーを活用して総予算4500億円に抑えるコンパクトなものだったのです。
ところが、石原都知事の後を継いだ猪瀬直樹、舛添要一、そして小池百合子と都知事が変わっていくにつれて、石原さんの思い描いた五輪は大きく姿を変えていった。招致に立候補したとき7340億円と見積もった大会経費は、最終的には3兆7000億円に膨れ上がり、石原の五輪はまったく異なる姿になっていた……なぜなのか? そんな疑問が本を書こうと思った出発点でした。
田原 石原さんとは彼が国会議員の頃、ある月刊誌の対談で大ゲンカをしたことがある。彼は「今の日本は対米従属で、自立した国家にならなければいけない。そのためには、憲法を改正し軍隊を持つべきだ」と主張した。
僕は「アンタの言っていることは正論だ。でも、日米同盟を辞めろとは言わないじゃないか! それで、あんたの主張する自主憲法制定なんてできっこない!」「自前で軍隊を持てば、防衛費は3、4倍にも膨らむ。アンタの話はリアリティがない!」と言ったら、石原さんは答えられなかった。
上杉 そんなことを正面切って言うジャーナリストなんて、田原さんくらいしかいませんよ(苦笑)。石原さん、相当、怒ったんじゃないですか?
田原 ところが、対談記事が載った雑誌が発売されて1週間後、石原の秘書から電話がかかってきて『あの対談を後援会の冊子に転載してもいいか』と申し出てきたんだ(笑)。なんと、あの大ゲンカの記事を石原が面白がっている、という。
彼は意見が違う人間を否定せず、耳を傾けていた。その懐の深さに驚きました。それ以来、彼とはとても仲よくなった。当時、自民党にはハト派と呼ばれる政治家がいたが、彼らは石原さんを怖がって付き合いなんてない。
すると石原さんが『ハト派の連中が何を考えているかさっぱりわからない。田原さん、俺に紹介してよ』と言ってきた。それで、加藤紘一、羽田孜、小渕恵三あたりを紹介したんだ。だけど、3人とも石原さんにやられっ放し(笑)。僕はハト派を全面的に応援したけど。
上杉 話を神宮外苑再開発に戻せば、そもそも外苑は日本初の風致地区に指定され、高さ15mなど厳しい建築制限が課されていました。
田原 ところが、その神宮外苑に高さ200mに迫る三井不動産や伊藤忠の超高層ビルが建とうとしている。
上杉 外苑の大地主である明治神宮は100年先までの安定した運営を目指して、財政の立て直しを図っています。ただ、最大の収入源の神宮球場は老朽化し、建て直すにも莫大なカネがかかる。そこで、球場の上空を利用する権利「空中権」を売却して建設費を調達したのです。一方、「空中権」を買った側は超高層ビルの建設が可能になった。
超一等地の外苑の空中権は総額1000億円超ともいわれる。まさに“現代の錬金術”で、これに明治神宮と三井不動産の思惑が一致した。そして、都が建築規制を大幅緩和した結果、巨大利権が生み出されました。実は、こうした「絵」は五輪招致が決定する1年以上前に、森元総理と都庁幹部によって描かれていたのです――。
東京五輪は外苑再開発のために招致されたのか? 神宮の杜の静けさが、再開発を巡る喧噪にかき消されようとしている。
構成/齊藤武宏 撮影/山崎元(本誌)
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