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思い出のセクシー女優・堤さやかさん降臨に興奮を抑えきれないおっさんの頭を駆け巡る懐かしき思い出

尿路結石のことを誰も切り出せなくなった

 本当に知らなかった。けれども、岡島さんは大号泣だ。そこまでみんな俺のこと考えてくれてたんだとオイオイ泣いている。  この状況で「いやね、本当は山ちゃんの尿路結石を祝うためのサプライズなんだ。尿路結石がコロンと出たことを祝うサプライズ」って言えるやつがいるなら僕の前に連れてきてほしい。そいつ人間じゃねえよ。 「よかったな、岡ちゃん」  サプライズの首謀者だった男がそう口にする。尿路結石は諦め、そっちにシフトするという合図だった。 「おめでとー!」  タイミングを見て花束を持った別メンバーが駆け寄ってくる。 「え、花束まで!? マジで!? 嘘!? 彼女も喜ぶと思う」  岡ちゃんはまだ大粒の涙を流している。花束メンバーは山ちゃんに渡すつもりで動いているのに、関係ない岡島が泣いていることに戸惑いを隠せていない。 「おめでとう、岡ちゃん!彼女も!」  首謀者がいろいろなことをかき消すかのように大声を上げる。それで何かを悟った花束メンバーは戸惑いながら岡ちゃんに花束を渡した。 「ありがとう。彼女にも見せるよ。喜ぶと思う」  まあ、それは本来、尿路結石に贈られる花束だったんだけど。

何とか誤魔化しきるのに成功……と思いきや、甘かった

「おめでとー!」  間髪入れずにケーキを持ったメンバーが突入してくる。サプライズの波状攻撃だ。これはまずい。ケーキには「尿路結石おめでとう」というチョコプレートが乗っている。これを見られたら「尿路結石ってなに?」となってしまう。 「おりゃー、祝いのケーキだ!おっと!チョコプレートは貰うぜ!大好きなんだ!」  俺でなきゃ見逃しちゃうほどのおそろしく速い手刀でプレートを奪った首謀者、即座に口に運びバリバリと食べる。 「おいおい、人のケーキを!」 「行儀が悪いぞ!」  首謀者の行動は岡ちゃんや何も知らないメンバーから非難轟々だったけど、僕らは知っている。とんでもない良い働きだった。尿路結石ケーキであることを隠すにはあのタイミングしかなかった。 「いやほんと、おめでとうな、岡ちゃん。ずっと結婚したがってたもんな」  山ちゃんが祝いの言葉を口にする。本当は自分の尿路結石が今日の主役であったはずなのに、なんていいやつなんだ。 (なんとか誤魔化しきったな)  首謀者がそんなアイコンタクトを見せてきた。僕もウィンクし、親指を立ててそれにこたえる。俺たちは誤魔化しきったのだ。その瞬間だった。 「おめでとー!」  堤さやかDVD3枚組を持ったメンバーが駆け寄ってきた。それを見た瞬間、思わず吹き出してしまった。これ、絶対に誤魔化せないだろ。  なにをどう誤魔化しても交際相手が見つかった岡ちゃんを祝うのに堤さやかDVDは説明できない。それも3枚組だ。
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地獄のような状況を皆が受け入れるしかなく……
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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