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「肉体の密度がウラン以上」ある巨漢のおっさん。絶体絶命の窮地で見せたミッションインポッシブル

おっさんは二度死ぬ 2nd season

おっさんはピンチにこそ輝く

 おっさんは追いつめられるとすごい力を発揮することがある。  つい先日、打ち合わせの時間を間違えるという大きなミスを犯してしまった。16時の約束だと思っていたけど実際には14時だった。なんと2時間も間違えていたのだ。かなり早く到着するように動いていたのだけど、それでも2時間のずれは大きい。このままでは先方に到着するのが遅れてしまう。そんなピンチに見舞われてしまった。  悪いことに、打ち合わせ相手はやたらめったら時間に厳しい人で、いつぞやは、5分くらい遅れてきた人を徹底的に自身のSNSでなじり続けていたらしい。その怒りはすさまじいもので、半年間くらい、毎日のようになじり続けていたらしい。それは確実に度を越えているものだった。 「今日は職場の近くで美味しいタンメンを食べました。人気店なのにすぐに出てきてビックリ。すこしは時間に遅れてきたルーズなあいつも見習ってほしい」  という、まあ、いくらかはわからんでもない弄りもあれば、ぜんぜん関係ないものもあったらしい。   「なんか大きな地震あったらしいね。みんな大丈夫だった? それにしても、あいつは時間にルーズだった」  こんなものを毎日のように続けられたら精神が崩壊する。あまりに粘着質すぎる。

僕はいま、そんな危険なおっさんにディスられるかもしれない瀬戸際である

 いま僕は、そんな危険人物との待ち合わせに遅れかけている。このままでは「大谷ホームラン! 時間にルーズなあいつ」みたいに毎日のように書かれてしまう。それだけは勘弁してほしい。  しかし、調べてみると、魔の乗り換えトリックを使えばギリギリ間に合うことがわかった。本来は乗換駅ではないけど、駅間の距離がそこまで遠くない別路線の駅同士、ここを走ることで乗り換えに成功すればなんとか間に合うようだ。西村京太郎もびっくりの乗り換えトリックを発見してしまった。  ただし、その駅間の距離は2キロくらいある。乗り換え時間は10分。2キロを10分はほぼ全力疾走だ。中学生男子の平均タイムくらいじゃないの。これ、おっさんにはかなり厳しいものがある。しかも、この乗り換えをミスしてしまうと次の列車がかなり遅くなるので、なにもしない場合よりも大きく遅れることになる。  ただ、このままでは確実に「パリ五輪開幕! 時間にルーズなあいつは死ね」と、夏頃まで書かれることになる。これはもう賭けるしかない。10分で2kmは無理かもしれないけどやるしかないのだ。  結果として、乗り換えには成功した。信号にまったく引っかからないという幸運も作用したけど、追い込まれることで途方もない力を発揮したのだ。絶対にSNSに書かれたくないという強い思いが不可能を可能にしたのだ。  オッサンはピンチに追い込まれるとすさまじい力を発揮することがある。おっさんとは怠惰な生き物だ。普段はあまり力を使わずに生きているというか、そういった術を身に着けてしるのだけど、どうしようもないピンチにその枷が外れ、途方もない力を発揮することがあるのだ。ただ、それは人智を超えたすさまじいものではなく、若い人からしたらやや普通の事象であることが多い。そもそもの力量が低く、ピンチの時にそれが平均レベルになるイメージに近い。
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肉体密度がウラン以上の男
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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