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「肉体の密度がウラン以上」ある巨漢のおっさん。絶体絶命の窮地で見せたミッションインポッシブル

必死で記憶を辿る、絶体絶命の唐島

 唐島さんは焦った。あまりに漏れそうで、おまけに足を引きずりながら必死にトイレに駆け込んだ。ちょっと意識も朦朧としていたかもしれない。もしかしたら女子トイレに駆け込んでしまったのではないか。 「悪気はなかったんだ。たんに間違えただけだ。説明すればわかってもらえる」  そう考えたけど、女子トイレの個室からウランの体を持つ男がでてきたら即通報だ。説明すら聞いてもらえないだろう。  思い出せ、思い出すんだ。入ってくるときにトイレの表示は確かに男子トイレのものじゃなかったか。 「あーだめだ。わからん!」  ボヤ―っと思い出せるのは、さいきん流行している妙にオシャレなフレームっぽいトイレ表示だ。カカシみたいなのがグワングワンしていてどちらが男子でどちらが女子なのか直感的にわからないやつだ。どちらに駆け込んだのか思い出せない。 「ゲハハハハ、性のウーバー!」 「まさに性のウーバーだね! それだわ!」  唐島さんの不安とは裏腹におばちゃんたちの会話は絶好調。なんだよ性のウーバーって。

やるべきことはただ一つ、どちらのトイレかを確認すること

 こうなったら、おばちゃんたちがいなくなったタイミングを見計らってサッと外に出るしかない。足は痛いけど、素早く動けばなんとかなる。 「ちょっとここで時間を潰していかないとね」 「そうね」  洗面台の前に陣取ったと思われる声の主たちはすぐにその作戦を打ち消す。  焦る唐島さん。そもそもここは本当に女子トイレなのか、それをはっきりさせないとならない。いくらなんでも、どれだけ表示が分かりにくかろうが、朦朧としようが、ウンコが漏れようが、男子トイレと女子トイレを間違うだろうか。そう、やはりここは男子トイレではないだろうか。  そうなると、やるべきことは一つである。ここは男子トイレという確信を得ることだ。そうしれば堂々と出ていくことができる。そう、このトイレに小便器があればいいのだ。小便器は男子トイレにしか存在しない。駆け込んだ時の記憶を必死に手繰り寄せるけど、残念ながらはっきりしたことがわからない。小便器があったような、なかったような、確証がないのだ。  こうなったら、ここから確認するしかない。音をたてないように少しだけドアを開けてその隙間から小便器を確認できるか。
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そして、ついにウラン以上の密度の肉体が動く……!
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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