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「肉体の密度がウラン以上」ある巨漢のおっさん。絶体絶命の窮地で見せたミッションインポッシブル

そして、ついにウラン以上の密度の肉体が動く……!

 ダメだ。角度が悪い。しっかりと、性のウーバーとか会話しているおばさんの二人のシルエットは確認できたけど、小便器は確認できなかった。これ以上ドアを開けると見つかるリスクが高まる。  こうなったら、上から覗くしかない。ブース仕切りの上からちょろっと覗き込んで小便器の有無を確認する。そこまで身長が高くないと言えども、便器の上に立てば見えるだろう。さっそく靴を脱いで便器の上に立った。  よし、もうちょっとだ、もうちょっとだ。  あと少しで顔を出せる、そこまできてさらなる異変が起こった。明らかに便器の感触が危ない感じになってきた。完全にウランの体で耐えられない感じがしてきたのだ。なんかこれ以上に体重をかけたら破壊されてしまいそうな危うい感じがしたらしい。  とっさに便器から降りようとも思ったけど、その際の体重移動で便器が粉々になりそうな気がして怖くて体重をシフトすることすらできなかった。でも、このままではなんだか便器がバキンといっちゃいそう。どうするどうする。  困り果てた唐島さん、とっさに個室の壁に手をつき、逆側の壁に足をついた。便器に負荷をかけまいととっさに取った行動だ。そのまま個室内のつっかえ棒みたいな体勢、ミッションインポッシブルみたいな体勢になって、じりじりと上に上がっていく。個室の板がメキメキと音を立てはじめるが、これなら体重が分散されるので破壊されるほどではない。

火事場のミッションインポッシブルの末に目にしたものは

 とんでもないことだ。足が痛いとちょっとの段差も登れない唐島さんが、トリッキーにミッションインポッシブルだ。そこまでして、ついに仕切りの上まで到達した。果たして……!  小便器はあった。  燦然と輝く4つの小便器。ここは男子トイレだったのだ。 「いやーここのトイレは誰も来ないから、混んでるときはこっちに限るわ」 「だわなー」  たんにおばちゃんたちが傍若無人に振る舞っているだけだったそうだ。 「いやー、おれもまさかあんなトリッキーな動きができるとは思わなかったわ」  おっさんは、ここぞのピンチとなると普段にはない力を発揮する。ただし、それは人智を超えたすごい力ではなく、普通の人ならそう苦労しなくともやれることだ。普段から低いパフォーマンスがピンチに普通になるだけなのだ。そしてその代償は大きい。  唐島さんは、ミッションインポッシブルの無理がたたって、さらに膝を痛め、より歩く速度が遅くなってしまった。  そして僕は、2km10分という魔の乗り換えトリックに成功して打ち合わせには間に合ったものの、全力疾走がたたって到着後も息切れと汗の噴出が止まらず、それがいたく不快だったらしく、いまだに相手のSNSに「大谷開幕戦! 涼しい顔でプレイしている。打ち合わせに汗ダクダクできたあいつも見習ってほしい」と書かれまくっている。 <ロゴ/薊>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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