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高学歴なのに生きづらい“弱者男性”はなぜ生み出されるのか。トイアンナ×牛窪恵

貧困、障がい、宗教二世など、多様な困難を抱える男性をあらわした“弱者男性”という言葉。弱者男性当事者の声を集めた話題の新書『弱者男性1500万人時代』で、ライターのトイアンナが、過少評価されてきた弱者男性たちの実態を明らかにするため、これまで数量的に定義されていなかった「弱者男性の人口」の推計に踏み切った。 その結果、「最大で1500万人」、つまり男性の約24%、日本人の8人に1人は何らかの弱者性を抱えていることがわかった。そのなかには、一見“強者”と思われがちな高学歴男性もいる。共感が得られない、孤独な生きづらさの正体に迫った――。 「草食系男子」や「男損時代」などのワードを世に広め、世代論を軸に研究を続ける牛窪恵氏と、緻密な取材による実態把握から弱者支援を考えるトイアンナ氏。2人が共通して課題とする「男性の幸福度の低さ」を皮切りに、高学歴規範からの脱却を語る。

高学歴弱者は “コミュ力偏重主義”になった社会の煽りを最も受けている

[高学歴弱者]の肖像

左)トイアンナ氏 右)牛窪 恵氏

トイ:牛窪さんは、’17年に『「男損」の時代』で「日本人男性の幸福度が世界的にも突出して低い」と指摘されています。 牛窪:当時、40代~60代半ばの男性を調査・取材していて、彼らが抱える閉塞感があまりに深刻で驚いたんです。ただ、今は人口800万人とされる団塊ジュニアが50代に入り、より厳しい状況の人が増えていますよね。 トイ:高学歴ワープアの存在はこれまでも指摘されていますが、取材をするほどに弱者性には貧困だけでなく、障がいや毒親、容姿など複数の要因があることがわかりました。“強者男性へのステップ”であるはずの“高学歴”さえも、相対的に弱者自認の要因になり得るのです。 牛窪:コミュ力に関しては、近年の社会変化が大きく影響したと思います。デジタルでの対話が通例化する半面、学校や就活、婚活など、あらゆる場でリアルの高度なコミュ力が求められるようになりました。学歴や収入が高スペックでも、コミュ力が乏しいせいで、結婚したくてもできない人があまりにも多い。 トイ:確かに、高学歴弱者は社会が“コミュ力偏重主義”になった煽りを最も受けている属性かもしれません。私自身も婚活の場に足を踏み入れたことで、日本の男性差別と弱者男性の存在を強く実感しました。配偶者の有無は幸福度に影響するだけでなく、死亡年齢とも関連しています。未婚男性の死亡年齢中央値は約66歳で、離別の場合は約71歳です。有配偶男性の約81歳からすると、未婚男性は約15年も早く死んでしまっている。

高学歴で一見エリートでも生きづらさを抱えていたら社会的弱者

[高学歴弱者]の肖像

「キャリアの中座を意識して違う環境を試してみる」(トイアンナ氏)

牛窪:日本の教育ではディスカッションなどコミュニケーション技術を教わる機会も少ないですし、コミュ力の有無は家庭環境や本人の資質と片づけられがちですよね。 トイ:自業自得とされやすい問題ですが、遺伝要素も高く「本人の努力不足」となじることは一方的な差別です。 牛窪:昭和の男性は多くを語らないのが美徳とされ、家庭でコミュ力が要求される場面は少なかった。でも今や男性にも家事育児力やコミュ力が求められ、別の格差を生んでいます。それでも国は家庭内に問題を押しつけている。 トイ:そう思います。社会から「支援の必要はない」とないがしろにされていますが、本当にそうなのでしょうか。高学歴で一見エリートでも、虐待や犯罪被害によって生きづらさを抱えていたら、自己責任ではない社会的弱者です。 牛窪:アドラー心理学でも、優秀な人は他責より「自責」で考えやすく、落ち込んだ際は注意が必要とされますね。 トイ:厚労省と警察庁がまとめた令和4年の統計でも、男性の自殺者数は女性の約2倍に上り、弱者男性へのアンケートでも、75%もの人が弱者になった理由を“自分のせい”と考えています。 牛窪:自責思考の人は、過去の行動から失敗要因を分析するので未来のミスを減らしやすい。でも高学歴な人ほど失敗経験も少なく、弱みを開示したがらないので、暗部を一人で抱えがちですよね。
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弱者男性1500万人時代 (扶桑社新書) 弱者男性1500万人時代 (扶桑社新書)

データで読み解く“弱者男性国家”ニッポンの現在

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