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日本が「宇宙予算へと政府資金を投入すべき」理由。10年間で1兆円でも足りない

スペースXを駆り立てているのは“狂気”だ

まず第一歩として、小さなロケット「ファルコン1」を作る。火星植民にはもっと大きなロケットが必要になる。だから「ファルコン9」を作る。火星植民にはより低コスト、より高頻度にロケットを打ち上げる必要がある。だからファルコン9の第1段を再利用化する。 火星植民のためにはより大きなロケットが必要だ。だから「スターシップ」を開発する。スターシップ開発には莫大な資金が必要だ。その資金をファルコン9を使って稼ぎ出す必要がある。だから、宇宙利用の中でも確実に利益を生む宇宙通信分野に進出する。それも非常に多くの衛星を打ち上げる必要があるので、これまでうまくいかなかった通信衛星コンステレーション分野に出て行く。それが「スターリンク」だ。その上で、本気で火星を目指す超巨大ロケット「スターシップ」の開発を加速する。スターシップを使えば、より高機能な次世代スターリンク衛星の打ち上げが可能になる……。 これは狂気以外の何物でもない。しかし、この狂気は、その節々で冷静な計算に裏打ちされている。狂気であり妄執であるが故に、スペースXは目的達成のために最適の手段を選択し続けている。彼らの手持ちの技術を検討していくと、そこには技術的な必然性しか存在しない。 「メーカー間で官需を分配して売上を立てる」とか「手持ちの技術が多少最適ではなくても、政治力を発揮して売り込む」とか「計画が遅延しても、その遅延に合わせて予算が大きくなれば、それだけ長期の売り上げが立つから問題はない」といった、今までアメリカの航空宇宙や防衛産業が使ってきた人間社会の手練手管、あるいは価値観は、スペースXには通用しない。

官需でのシェア拡大は「火星植民」への最短手段に過ぎない

  スペースXはイーロン・マスクの狂気のままに、最善・最適の手段を最短距離で採用して目的に進んでいる。スペースXが官需でシェアを取るのは、経営者が株主に厚く配当し、多額の報酬を受け取るためではない。火星植民という目標に最短距離で進むために必要となる収益を上げるために過ぎない。   この「驀進する狂気」に、国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送船の補助金計画COTSや、ISS乗組員輸送有人宇宙船補助金計画CCDeV、さらにはアメリカ主導の国際協力による有人月着陸計画「アルテミス」での補助金といった、莫大な補助金が落ちた結果として、今のスペースXがある。 “彼らは火星植民という目標に向けて、最善と信じる手段を選択し、最短距離で走ろうとしている” そのことを肝に銘じた上で、日本は宇宙政策を進める必要がある。 <文/松浦晋也>
ノンフィクション・ライター。宇宙作家クラブ会員。1962年東京都出身。日経BP社記者を経て2000年に独立。航空宇宙分野、メカニカル・エンジニアリング、パソコン、通信・放送分野などで執筆活動を行っている。『飛べ!「はやぶさ」 小惑星探査機60億キロ奇跡の大冒険』(学研プラス, 2011年)、『はやぶさ2の真実 どうなる日本の宇宙探査』(講談社新書, 2014年)、『母さん、ごめん。 50代独身男の介護奮闘記』(日経BP, 2017年)など著書多数。
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日本の宇宙開発最前線 日本の宇宙開発最前線

なぜ日本では「スペースX」が生まれないのか

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