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おっさんがネット上の美人に騙される理由は「特にない」が正解なのかもしれない

なぜおっさんたちはこうもチョロいのか

「経験人数7桁! だれでもかかってこい!」 この一文におっさんどもが沸き立つ。 「経験人数7桁ってすごすぎだろ。これもう、誰でもいいってことじゃん」 「これ絶対にエロい女ですわ。性の奥義を極めてますわ」 ちょっとまて、お前らホントにエロが関わると判断力がゼロになるな。これこそ騙しだろ。 冷静に考えてほしい。経験人数7桁だ。1,000,000人から9,999,999人がそれに該当する。大雑把に言って経験人数100万人から1000万人までだ。そんなやつ存在するわけないだろ。 「経験人数100万人はありえないですよ」 僕が冷静にそう告げるのだけど、判断力がゼロになっている連中には響かない。 「すげえエロい女だったらありえるかもしれん」 「100万人と経験するくらいだ、おれたちみたいなおっさんも相手してくれる」 依頼主のおっさんだけでなく、円卓メンバーも可能性を感じてちょっと色めきだっている。 いやいや。可能性を感じるな。絶対におかしいだろ。

信じられないだろうが、これがおっさんの実態なのである

この女性が35歳として、初体験が少し早くて15歳だとしよう。そうなると20年間で100万人と経験しなくてはならない。20年間は7300日なので、1日に換算すると137人と経験しなくてはならない。毎日休むことなく、盆も正月も137人だ。不眠不休で経験してもおおよそ10分に1人と経験する必要がある。 「1日に137人ですよ」 僕の冷静な計算にも彼らは揺るがない。 「きっと3Pとか乱用したんだろ」 「これだけエロいから4Pとかしてるだろ」 ぜんぶ4Pだとしても30分に1回はメンバーを総入れ替えして不眠不休で経験し続ける必要がある。そっちのほうが大変だろ。無理にきまってるだろ。 メンバーたちがハマったように、異常な経験人数を匂わせるのは、けっこう誰にでも可能性があると思わせるためだ。おっさんは基本的に自信がないので、こういうのに騙される。ただ、それがあまりにやりすぎてしまって現実感のない数値になってしまった。本当はこれこそが“騙しである”と瞬殺されるべきなのだ。 「いっとくしかないだろ」 「おれもいけるかな」 「あ、俺もいけるかな。連絡先を知りたい」 もう完全に円卓会議が機能していない。本当にエロが関わると判断力がゼロになる。このあたりにおっさんが騙されるやすい神髄みたいなものを見た気がする。 「じゃあ僕は帰ります。このあと、親族が上京して来るんで東京を案内することになってるんです」 無意味な円卓会議を早々に切り上げて、上京してくる親戚の東京案内に向かおうとする。 「ちょっとまった、その親族って女か?」 「ええ、来春から就職で上京する女子大生です。物件探しにくるんです」 「女子大生、それは騙しかもしれんぞ」 騙しなわけあるか、親族だぞ。ほんと、この円卓会議では女子大生だけは瞬殺されるキラーワードなのだ。 おっさんどもは騙されたくない。そして猜疑心が強い。けれども、その猜疑心はちょっとどこかずれているし、エロが関わると判断力がゼロになるのである。それでもやっぱり、おっさんは騙されたくないのである。 <ロゴ/薊>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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