更新日:2024年08月02日 16:10
ライフ

古民家で過ごすおっさんの夏。少年時代の夏の思い出が恐怖とともに蘇った

古民家はとんでもない場所にあった

「いまから古民家に行っても誰もいないよ」  おそーい、めんごめんご、というやり取りもなければスイカも冷えていない。ただ真っ暗な無人の古民家がそこにあるというのだ。古民家といってるけど、言い方を変えると友人のお婆ちゃんの家だ。あまりに僕とは無関係な建物すぎる。 「でもまあ、鍵の場所は教えるから勝手に入っていていいよ。でも駅から古民家まで行く交通手段はないよ」  もう選択肢はなかった。既に吉野に向かう近鉄電車に乗り込んでいたので、誰もいない古民家に向かうしかないのだ。なあに、そこで一夜を明かせば、朝には仲間が到着するのだ。それまでの辛抱だ。  なんとか最寄りの駅に到着する。もしかしたら駅前にバスがあったりして、タクシーがいたりして、古民家まで一気にいけるかもと淡い期待を抱いたのだけど、その期待は問答無用に砕かれる。  駅は完全無欠の無人駅で、バスもなければタクシーもない、それどころか人影すらない場所だった。降りる人も僕以外はいなかった。淡い期待を抱いてタクシー配車アプリを開いたけど完全に無駄だった。バスなんて夕方の5時が最終だった。 「歩くしかないのか」  調べてみたら駅から古民家まで6キロもあった。真夏の夜に山道を6キロはなかなかきつい。

 あたり一面、林しかない場所の恐ろしさ

図1 このような寂しい場所を歩いていくのだけど、こうやって商店や民家、街灯がある場所はまだましで、林しかない場所に差し掛かると一気に恐ろしさが生まれてくる。  まず、突如として歩道が無くなる。そして街灯もなくなって真っ暗になる。けれども道路自体は国道なので車が猛スピードで通過してくる。怖い。たぶん車の運転手の方も、人の気配がまったくない真っ暗な山道で、突然、歩いているおっさんを見つけるものだから恐怖を感じていると思う。  ガサガサガサ  そんな真っ暗な道を歩いていると、林の方からなかなか穏やかではない物音が聞こえてくる。やだ、怖い。すごく怖い。 「誰だ!」  林の奥に向かって叫ぶ。返事はない。 「いるのはわかってるんだぞ! 出てこい!」  と叫び続けると、ヌッと鹿の集団が出てきた。こしたんたんとした表情でヌッとでてきた。さすが奈良県だ。一気に鹿の集団に囲まれることとなってしまった。  なんとか鹿を振り切り歩き出す。  とにかく汗の噴出がものすごい。死にそうになりながら歩いていると途中にコンビニがあり、そこでお茶を買ってなんとか命を繋ぎとめる。コンビニ店内では地元の人っぽい若者が2人、なかなか大きい声で話をしていた。 「それでさ、家にいたら明らかにお爺ちゃんの霊がでてくるわけよ」 「古い家だもんな、霊ぐらい出るよな」 「爺ちゃん、すげえうらめしそうだった」  あたりまえのように幽霊が出る前提で話をしているのが面白かったし、爺さんうらめしそうなんか、恨まれてるんかいとつっこみをいれそうになった。
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冷や汗をかきつつたどり着いた民家で、さらなる恐怖に慄く
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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