更新日:2024年08月02日 16:10
ライフ

古民家で過ごすおっさんの夏。少年時代の夏の思い出が恐怖とともに蘇った

冷や汗をかきつつたどり着いた民家で、さらなる恐怖に慄く

 その後も、林の奥から聞こえる謎の物音に叫び続け、ボロンと鹿が飛び出してくるという一連の行動を繰り返し、なんとか命からがら古民家に到着した。よくもまあ、6キロも歩いたもんだ。  教えられた鍵の隠し場所を物色し、なんとか古民家を開けて畳の中央に腰を下ろす。なんかシーンとした古民家は仲間でワイワイしているいつものそれとは違って不気味なものがあった。  そこで先ほどのコンビニでの若者たちの会話が思い出される。 「古い家だもんな、霊ぐらい出るよな」  この家も古い家だし、霊くらい出るかも。そう考えた瞬間だった。  コンコン。  明らかに入口の引き戸がノックされているのだ。完全に誰か来ている。もしかして、朝に到着するってのは大いなるブラフで、仲間たちが到着したのかもしれない。なんだよ、俺を驚かせようと思ってコッソリ来たんだな。こりゃ一本とられちゃったな。  急いで入口に向かい、引き戸を開ける。 「誰もいない」  おかしい。聞き間違いだったのかと、また畳の上に戻る。  コンコン。  絶対にノックされている。けれども、入口に向かうと誰もいない。なんだかおそろしくなってきた。またコンビニでの彼らの会話がリフレインする。 「古い家だもんな、霊ぐらい出るよな」

ノックが止まず、恐怖はマックスに

 この古民家は古民家というくらいだから完全無欠に古い。本当に、もしかして、霊がノックしているのか?  なんか冷や汗みたいなものがドバドバ出てきた。ついでに、部屋の中もけっこう暑いので普通に汗も出ている。冷や汗と暑汗が混ざっている状態だ。よく考えたら他人の古民家に一人ってマジで怖いな。  コンコン。誰もいない。なんど繰り返しても誰もいない。マジで怖い。でも正体を知りたい。  こうなったらドアの横に待機しておいてノックされた瞬間に引き戸を開けるしかない。さすがにノックの瞬間に開ければ霊であるとそこにいるはずだ。 「コンッ」  の瞬間にガラッと開ける。そこにはクソデカなカナブンがいて引き戸に向かって果敢にアタックしていた。こいつがノックしていたんか。  幽霊じゃなかった。安心した。  なんとか追い払って畳の部屋に戻る。  コンコン。  先ほどより強いノック。今度こそ仲間が到着したのだと入口に向かう。今度はカブトムシが果敢にアタックしてきていた。  カナブンやカブトムシとの死闘でめちゃくちゃ汗だくになったので扇風機を引っ張り出してきて稼働させる。その瞬間、また怪現象が起こった。  ガサガサッ。  部屋の隅から物音が聞こえる。見ると、畳部屋の隅にかけられた掛け軸が勝手に動き出している。これは完全に霊。完璧にポルターガイスト。 「古い家だもんな、霊ぐらい出るよな」  また若者の言葉がリフレインする。  ただ、この謎はすぐに解けた。扇風機の風が僕の体にあたって、部屋の中を乱反射して掛け軸を動かしているのだ。その原因さえ分かってしまえばなんてことはない。幽霊の正体見たり枯れ尾花というやつだ。
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おっさんになって「少年の日の夏」を再現するとは思わなかった
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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