更新日:2024年08月02日 16:10
ライフ

古民家で過ごすおっさんの夏。少年時代の夏の思い出が恐怖とともに蘇った

おっさんになって「少年の日の夏」を再現するとは思わなかった

 ただ、ずっと掛け軸が動いているのはあまり気分が良いものではないので、なんとか扇風機の位置と自分の位置を調整し、掛け軸まで風が届かない位置関係を追求する。ただ、これがめちゃくちゃ難しくて、そもそもコンセントの関係で扇風機の位置は決まっているし、どこにいても乱反射して掛け軸に到達するようになっている。そういう設計なのかと疑うほどだ。僕の体に風が当たらなければ掛け軸は動かないのだけど、それでは意味がない。  試行錯誤を繰り返した結果、扇風機を南側に向けて、僕は部屋の隅のところで三転倒立、つまり逆立ちをして風を受けると掛け軸が動かないことを発見した。かなりきつい体勢だけど涼しさを得るためにはこれしかない。なにやってんだ。  誰もいないたった一人の古民家。コンコンとドアにアタックするカブトムシが激しさを増し、なぜか僕は三転倒立で扇風機の風を受ける異様な光景。逆立ちしてるから汗が鼻に入ってくんだよ。  闇夜を鹿と格闘しながら6キロ歩き、クソでかカナブンとカブトムシと格闘し、最終的に三転倒立で眠りにつく古民家の夜。しらじらと夜が明けてきたころにやっと仲間たちが到着した。 「さあ、これから夏らしいことガンガンやっていきましょう!」  高らかにそう宣言する友人。ただもう僕はもうかなり夏らしいことをしてしまった。  思えば、少年の頃の夏はクーラーがなくても過ごせる暑さで、この古民家の夜のような感じだった。そして、家に襲い掛かる虫と戦い、そしてあまりに夏休みが暇すぎて逆立ちして扇風機の風を受けたりする暴挙に出ていた。そして、夏休みになると放送していた「あなたの知らない世界」という心霊番組を見て幽霊に恐怖していたのだ。ひとりで過ごした古民家の夜は少年の日の夏そのものだった。 「もう少年の日の夏をやっちゃった」  僕らおっさんは夏を満喫しなければならない。それも、あのあまりに暑く、そして熱かった少年の日の夏だ。なんでもできると信じていたあの日々こそが、僕らの人生における夏だったのだ。 <ロゴ/薊>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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