原画展を開催中の漫画家、大友克洋と江口寿史の豪華対談!【後編】

 4月9日より代表作『AKIRA』の原画を中心に約3000枚の原画を公開した「大友克洋GENGA展」(東京・秋葉原)を開催、注目される漫画家・大友克洋。4月26日より、パントーンを使用して80年代~90年代に描かれた作品35点を集めた原画展[tone](東京・吉祥寺)を開催中の漫画家・江口寿史。プライベートでもよく飲む仲だという2人の巨匠に、それぞれの原画展への想い、お互いの作品へのリスペクトについて語ってもらった。

⇒【前編】はこちら http://nikkan-spa.jp/202642

――江口さんは、デビュー前後も大友さんの作品に影響を受けたりはしたんですか?

江口: 大友さんの作品の画期的だったところって、「汚し」が入るところなんですよ。建物とか乗り物とか、大友さん以前の漫画は汚れなんてなくて綺麗に描くのが普通だった。でも、生活して道具を使っていたら当然汚れるわけで。それをきちんと描いたのが大友さんだったんです。当時の漫画家はみんな真似したんじゃないかな。同じ時期だと『スター・ウォーズ』(78年日本公開)でもルークの乗り物に汚れが入っていたのが新鮮でしたけど、その時期の映画や、アメリカン・ニューシネマの影響もあったんですか?

大友: 最初の『スター・ウォーズ』は、綺麗なところで戦ってるんじゃなくて、ボロボロの森の中で戦っている様子が凄く面白かった。ああいうのって、同時多発的なものなんじゃないかと思うんだよ。誰かがこうしたから俺もって言うんじゃなくて、同じ時代を生きて、その時代の空気を感じながら生きていれば、当然同じ表現方法に辿り着くっていう。『ブレードランナー』(82年日本公開)なんかもそうだよね。

――時代的には、ベトナム戦争を経て「強いアメリカ像」が崩れた後でもありますが……。

大友: 「綺麗なものだけじゃなくて汚い部分もちゃんと見よう」っていう空気に変わっていった時代なんだと思うよ。ニューヨークの街だって、新しくて綺麗なビルだけじゃなくて古いものと混在しているわけで、「汚れ」も含めて初めてちゃんと描いたことになるんだよ。映画も漫画も、必然的に「汚れを描く」ようになっていった。

江口: プラモデルにしたって、最初は綺麗に塗っていたものを、どんどん汚すようになっていきましたもんね。そのほうが楽しいし、リアリティがある。

大友: 線香を押し付けて戦車に銃創を作ったり(笑)。

――大友さんが「汚し」でリアリティを描き出した一方、江口さんは「コンバースのスニーカー」など、ファッションや音楽の具体的な固有名詞をどんどん漫画に登場させることでリアリティを描き出していきましたが、それも同時多発的な印象でしたか?

江口寿史原画展[tone]江口: 漫画でそういうことを始めたのは多分僕が最初なんだと思うけど、ブランド名や商品名を登場させるっていう意味では田中康夫の「なんとなく、クリスタル」(80年)なんかもそうだったんですよね。

大友: 「トパーズ」(88年/村上龍)とか、雑誌でいうと『POPEYE』もね。

江口: 「マクドナルド」を「ナクドナルド」って書かなきゃいけないとか、そういう漫画のルールがイヤだったんですよね。それまでの漫画に出てくる、その靴、靴ひも通ってるのかよ!って感じのハイカットのスニーカーとかを見て、リアリティのない漫画的な記号から逃れたいなと。マクドナルドはマクドナルドでいいじゃん、コンバースはコンバースでいいじゃんていう反発があった。

大友: 名前を出すことで同世代に伝わるリアリティってあるからね。

江口: 姉妹でも、お姉ちゃんはこのブランド着ていて、妹はここのブランド着てる……と具体的に描き込んでいくことで、その時代の空気が自然と反映されるんですよね。

大友: いま自分で昔の原稿を見返しても、描いていたときの空気、雰囲気、もっと大きくいうと時代みたいなものってやっぱり鮮明に覚えてるんだよね。具体的なものじゃなくて「感じ」を思い出す。あのときは大変だったなーっていうのもあるけど、原稿が上がった後だから楽しい気持ちのほうが大きい。

江口: 原稿上がるとね(笑)。万能感に溢れてるよね。天下取ったような気持ちになる!

大友: どんなに疲れてても、バッタリ寝たりしないもんね。原稿が終わったら必ず飲みに出る(笑)。

江口: 僕も、完成に近づくに連れてノリノリになっていきます。下書きは苦労するけど、仕上げは早い。ヘッドフォンつけて歌いながら仕上げしてます(笑)。大友さんは久々にご自分の原画をご覧になってどうでしたか? 改めてやる気が湧いたりしましたか?

大友: 「AKIRA」は単純に、あー、よく全部原稿があったなーって(笑)。

――ご自身の原画のことを「呪い」と表現されていましたが……。

大友: 自分の持っている思い、気、ときには怨念みたいなものが全部集まっているからね。

江口: 大友さんは、自分の出来ること、やりたいことを絵のなかで全部ちゃんとかたちにしていて、改めて凄い! と思いました。まだこんなもんじゃ出せない、絶対に自分のイメージした通りに描ききってやる! っていうパワーが半端じゃない。

大友: だってね、みんな泣きながら描いているわけじゃないですか。念も集まりますよ。

江口: え、大友さんでも泣くんですか?

大友: そりゃ泣くよ。

江口: 大友さんは泣かないと思ってた。何か勇気付けられました。

大友: みんな泣くって。

江口: 松本大洋とか五十嵐大介とか、泣かずにサラサラッと描いてそうだけどなー。

大友: 泣いてなさそうに見える、苦労が絵に出ていないってのは大事だけどね。でも、松本大洋だって五十嵐大介だって泣いてるよ! 結局机に向かっているときはみんな孤独なんだから。

江口: そうかー。泣いてるの俺だけかと思ってた。「俺はこんだけ泣いてるんだからもっとみんな同情しろ!」って思ってました(笑)。

――最後に、おふたりが最近注目されている漫画やイラストがあれば教えてください。

大友: あんまり雑誌では読まなくなっちゃっているんだけど、モーニングで連載されている「ポテン生活」(木下晋也)は好きですね。以前、単行本で全部集めていたのは中川いさみ。いしいひさいちの漫画は、見つけたときに買うようにしていたら、気がついたら同じものが3冊あったりして。日常を楽しませてくれるような作品を読むことが多いです。

江口: 僕はギャグだと地獄のミサワかな。ストーリーだと「森山中教習所」の真造圭伍なんかが好きですね。イラストは、最近は素人でもめちゃくちゃウマい人ってたくさんいるからビックリしますよね。前は僕は漫画家のなかで36番めくらいに絵がウマいと思ってたんだけど、今は101番くらいかな……。もちろん、1番は大友さんですよ。

――かわいい女のコの絵だったら?

江口: あ、それは僕が1番です(笑)。でも、それだけじゃ漫画描けないからなあ。泣きながら描くしかないですね(笑)。


●大友克洋GENGA展
代表作「AKIRA」の原画2300枚をはじめ、およそ3000枚の原画を展示。大友自身が震災被災地である宮城県出身ということもあり、来場者収益の一部は震災復興の支援活動に充てられる

12年4月9日~5月30日/[平日]11:30~20:00 [土日祝]10:30~20:00 
第3火曜日休館(日時指定予約制)
於:3331 Arts Chiyoda
〒101-0021 東京都千代田区外神田6-11-14
http://www.otomo-gengaten.jp

●江口寿史原画展[tone]
今はなき画材・パントーンで制作した作品のなかから自身が選んだ35点を展示。作品はすべて購入可能で、「ストップ!!ひばりくん!」のイラストなど4点はオークション形式で販売

12年4月26日~5月9日/12:00~18:00(最終日は17:00まで)
於:リベストギャラリー創
〒180-0002 東京都武蔵野市吉祥寺東町1-1-19 HSアライビル1F/電話0422-22-6615
http://www.libestgallery.jp/eguchi/tone.html

大友克洋,江口寿史

大友さんでも描いているときは泣いているなんて意外です」(左/江口) 「机に向かっているときは孤独なんだから、誰だって泣いてるよ」(右/大友)

●大友克洋(右)
54年、宮城県生まれ。漫画家、映画監督。代表作に「AKIRA」(第8回講談社漫画賞受賞)「童夢」(第15回星雲賞受賞)ほか多数。余白の使い方、風景の描き方、圧倒的なデッサン力など、「大友以前、大友以後」と言われるほどに後の漫画表現に影響を与えた。88年に自ら監督した『AKIRA』は世界的に高い評価を受け、「クール・ジャパン」の先駆けとなる。近年は映画監督としての活動が中心だったが、現在『少年サンデー』での連載を準備中

●江口寿史(左)
56年、熊本県生まれ。漫画家、イラストレーター。代表作に「ストップ!!ひばりくん!」「すすめ!!パイレーツ」など。92年に「江口寿史の爆発ディナーショー」で第38回文藝春秋漫画賞受賞。その精緻な画風と魅力的な女のコのイラストが人気を集め、90年代以降はCMや音楽ジャケットなどを多く手がけるイラストレーターとしても活躍。大友克洋が原作・脚本・メカニックデザインを担当した『老人Z』(91年)では、キャラクターデザインを担当

取材・文/牧野早菜生 撮影/山川修一




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