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ホラーがヒットしないのは「経済的にしんどいし現実が苦しい」のが原因!?<劇画狼×崇山祟対談>

『シライサン』『犬鳴村』の公開で今、Jホラー映画に注目が集まっている。また、モダンホラーの帝王スティーヴン・キング原作の映画『IT/イット』『ドクター・スリープ』の大ヒットを始め、映像の世界では“恐怖”を扱う作品は好調なようだ。一方、ホラー漫画の世界では、世を席巻するような大ヒット作が生まれているとは言いがたい状況にある。その理由とはいったい? 『シライサン』のコミカライズを担当した“ネオ”レトロホラーの鬼才・崇山祟氏と、webサイト「リイドカフェ」で、埋もれた異能のホラー作品などをサルベージする復刻企画「エクストリームマンガ学園」で知られるフリー漫画編集者・劇画狼氏の2人に、Jホラー漫画シーンの現状、軽薄で陰惨なホラー作品が咲き乱れた’90年代の思い出、そしてホラーの愉しみについて話を伺った。

特殊出版レーベル「おおかみ書房」の編集長・劇画狼(左)と、漫画『シライサン』が好評発売中の漫画家・崇山祟

企画の趣旨を無視する漫画家

――2人の出会いは、劇画狼さんがリイド社のウェブサイト「リイドカフェ」でやっている、埋もれた読み切り漫画を紹介する連載「エクストリームマンガ学園」だったそうですね。 劇画狼:はい。もともとは一読者として、崇山祟先生がnoteに連載していた『恐怖の口が目女』(以下、『口が目女』)に注目していました。この作品をみんなに知ってもらうきっかけになったらいいなと、エクストリームマンガ学園に先生の過去作を掲載させてほしいとお願いをしました。そしたら、「いや、書き下ろします!」というお返事で。一応、既出の作品を復刻する企画なんですけど、全然趣旨を汲んでくれず……。 崇山祟(以下、崇山):もちろん趣旨は理解してたんですが、狼さんの連載のファンだったので「こりゃあエクストリームしなきゃいけないぞ!」という思いが先走ってしまって。 劇画狼:それで送られてきたのが、「童貞兵器」という、めちゃくちゃなオチの漫画で。でも、面白い作品だったし反響も良くて、あれがきっかけでリイド社から『口が目女』が書籍化されることが決まったんですよね。で、販促のために今度こそ過去作品の復刻を、と思って相談したら、またもや「書き下ろします!」って。 崇山:「いかさま」ですね。いや、あれはリイド社の担当編集者さんから「書き下ろしてください」という依頼だったんですよ。 劇画狼:誰も企画の趣旨を汲んでくれない(苦笑)。でも、自分の連載で紹介した漫画家さんが、今回の『シライサン』のような大きな仕事をゲットしてくれるのは、やっぱり嬉しいですよ。しかも、すごく面白かったし。乙一先生の小説をそのまま漫画にしました、という“いわゆる”なコミカライズじゃなくて、元の設定は生かしつつも、崇山先生のオリジナルな作品になっているのが良かった。 崇山:異様に目の大きな女の霊「シライサン」の名を知った者は呪われるとか、その霊から目を逸らすと眼球を破裂させて死ぬとか、基本的なところは原作に忠実に描いてます。でも、青春ものの要素を入れたりといった、僕独自のアレンジも自由にやらせてもらえて、すごく楽しかったです。 劇画狼:原作では、シライサンにまつわる言い伝えの話って、もっと後半で触れられる核心的なネタなのに、漫画では思いっきり最初の方に出しちゃうじゃないですか。あれで「おー、崇山祟だ!」ってなりました。伝記的な、伝承的なエピソードをフィーチャーするのは十八番ですもんね。あのストーリーの並び替えは、崇山先生が原作小説を「自分の漫画」にするためのテクニックだなと思いました。

映画『シライサン』を崇山祟がコミカライズした『シライサン オカルト女子高生の青い春』(原案・乙一/漫画・崇山祟)

因果応報よりも理不尽な死を!

――今回の対談は「ホラー漫画の楽しみ方」というテーマなのですが、2人はこのジャンルの現状をどのようにご覧になられていますか? 劇画狼:今ホラーの連載で当てようと思ったら、正直、内容はゾンビか巨大生物系のパニックホラーの2択になってしまうような気がします。でもそれは、僕のようなホラーファンが期待するものとは、必ずしもイコールではない。「売れてるホラー」というジャンルが、「ホラー」というジャンルとは別にあるような感じ。それと、単純に「血が出る」「臓物が出る」みたいな、絵が怖かったりグロかったりするものだけが「ホラー漫画」と認識されているような気がします。 ――記号的に理解されちゃってるわけですね。 劇画狼:自分にとってのホラーは、少なくとも「=スプラッター描写」ではない。もっと広いものだと思ってます。自分が関わったものだと、オガツカヅオ先生の『魔法はつづく』みたいな作品こそがホラーだと思ってるんですけど、一般的には「え、これホラーなの?」という感じなんでしょうね。 崇山:僕、狼さんのホラー漫画の紹介の仕方が好きなんですよ。基本的に「ちょっと聞いてよ、こんなに面白い漫画があるんだよ」的なスタンスで、作品こそマニアックだけど、その面白さは超メジャー級。わかりやすいし絵もポップだし、決して敷居が高くないという共通点がある。 劇画狼:既にホラーが好きなマニアに向けて「もっとすごいのがあるぞ!」というのじゃなくて、面白いものなら何でも読むけど、たまたまホラーに触れる機会がなかった人たちに「振り向いてもらう」ってアプローチですかね。変な漫画を紹介してますけど、ただ人を不快にしたいわけではないんです。 崇山:狼さんにとって、理想のホラー漫画って、どんなものなんですか。 劇画狼:因果応報から外れた話かな。悪いことしたヤツが祟られて最後酷い目に遭う――みたいなのより、すごいムカつくヤツが生き残って、何も悪いことしてない人が理不尽に死んでいったりする話が好きですね。 崇山:作者が、神視点で人を雑に殺してる漫画ですね。 劇画狼:そうそう、そんな感じ。例えば、楳図かずお先生の『14歳』なんかは、因果が巡ってツライ死に方をする人が1人も出てこないから好きですね。あとは、ホラーじゃないけど因果を超越した話なら三条友美先生の『少女菜美』っていうめちゃくちゃなSM劇画シリーズがあるんですけど、とにかく悪くも何ともない人たちの尊厳がガンガン奪われまくるのが最高ですね。 ――オガツ先生の『魔法はつづく』を始め、狼さんが紹介する漫画には、奇想小説みたいな趣もありますよね。 劇画狼:怖い漫画が好きというよりは、めちゃくちゃな設定の短編が大好きなんです。そういうものを求めるなら、ホラーにたくさんあるよ、という解釈で自分はホラーファンなんです。
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コンプライアンスがホラー漫画を殺す?
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シライサン ~オカルト女子高生の青い春~

ホラーSF漫画『恐怖の口が目女』が大きな話題を読んだ漫画家・崇山祟(たかやまたたり)が、 今度はホラー映画『シライサン』のコミカライズに挑む!


全身編集者

伝説の雑誌「ガロ」元副編集長が語り下ろした半生記・半世紀

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