ラブホテルの待合室で盛り上がった「泥酔大学生カップル」が暴走。スタッフ4人がかりで引きはがし、あえなく“永久出禁止処分”に
僕は上京した18歳から26歳の現在に至るまで、仕事が続かず様々な職場で働いた。その中でも比較的長く働き、多くの経験をしたのがラブホテル清掃だ。ラブホテルでの経験なんてせいぜい単調な清掃業務だけだろうと思われがちだが、実は面倒な場面も多い。例えば泥酔客の対処、部屋前でのコスプレなどの貸し出し、AV会社やオトナのお店からの電話対応など、細々と色々やらされる。
とはいえ、都内でも屈指の回転率の悪さを誇るであろうラブホテルだったので、平日のほとんどはお菓子を食べながら昼ドラをぼんやり見ているだけだった。そんな環境にも関わらず従業員はほとんど定着せず、一部の古株社員を除けば僕が働き出してから退職するまでの2年間で残っていた人間はひとりもいなかった。はじめはなぜ人がやめるのか理解できなかったが、働くうちに段々とここにいてはいけないと考えるようになり、結局僕自身も退職に至った。
そんなどこか問題のあるラブホテルの内側を実際にラブホテルで起こった出来事や同僚を交えて伝えていきたい。
シラフでラブホテルに行くのは、シラフでカラオケに行くのと同じくらいハードルが高いと感じる。大の大人が二人きりで性行為を目的とした場所にしけこむなんて、そもそも正気の沙汰ではないのだから、アルコールの力に頼ってしまうのは仕方がない。
とはいえ、だいたいの客はほどよく酔いつつもフロントで普通に受付し、客室へ入っていく。その一方で、自分のキャパシティを超えるアルコールを摂取したであろう男女も中にはいて、そんな日に運悪くシフトに入っていると地獄の光景を目の当たりにすることになる。今回は、僕のラブホテル勤務史上“もっとも苦労した日”のことを書いていきたい。
「千馬君、また来たよ……」
フロントスタッフ歴10年のベテラン、潮見さんが僕にこう呟いたのは、桜が満開の季節。その目線の先にあるエントランスには見知ったカップルの姿があった。彼らはよく来る学生カップルで、自宅で会えばいいのにわざわざラブホテルに来る。それも昼から呂律の回らないほどベロベロの状態で。
彼らは、いつも考えられない量の吐しゃ物で部屋を汚し、まるで憑きものが落ちたようなスッキリした顔で帰っていく。こういう迷惑客は本来出禁にするのだが、流行り病で客足が減ったことで経営方針が変わり、いかなる客も受け入れざるを得なくなった。僕らの雇用にも関係するのだから背に腹は変えられなかった。
その日は近くのオトナのお店からの要請によってたまたま満室になり、エントランスのソファー席で件のカップルを待たせることになった。諦めてさっさと帰ってくれればよかったのに、「待ちまぁす」とよろけた足どりでソファーに座ったカップルを見た瞬間の嫌な予感はすぐに的中することとなる。

画像はイメージです
ラブホテル勤務史上“もっとも苦労した日”
厄介者扱いされていた「泥酔大学生カップル」
小説家を夢見た結果、ライターになってしまった零細個人事業主。小説よりルポやエッセイが得意。年に数回誰かが壊滅的な不幸に見舞われる瞬間に遭遇し、自身も実家が全焼したり会社が倒産したりと災難多数。不幸を不幸のまま終わらせないために文章を書いています。X:@Nulls48807788
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