ハロプロにみるアイドルとプロレスの親和性【後編】

⇒【前編】「POP’nアイドル」でスマイレージが起こした事件とは?  アイドル変遷の歴史を見てきたファンの視点も時代とともに変わり、求める情報の精度・ニーズも変わってきたという。その事情について、アイドル雑誌『Top Yell』の編集長・島村祐介氏は以下のように語る。 「従来、アイドル雑誌はアイドルのグラビア写真と趣味/特技/休日の過ごし方といった、“素顔はこんな女のコ”的な内容がメインでした。ただ、最近はより“現場”への興味が高まっているのを感じます。『ライブでのパフォーマンスがどうだったか』、『あのセットリストを本人たちはどう考えているのか』といったライブ現場への興味です。また、『あの振付け師の先生は今回のパフォーマンスをどう評するのか?』、『新曲のリズム感は? タイム感は?』といった技術ベースの解説への関心が高まっているのも感じます」  もちろん、AKB総選挙の行方や、ライブ以外のプライベートに迫る記事に興味津々な層も多数いる……というより、こちらのほうが依然として主流の気もする。 「そもそも従来からのアイドルファンは、すべからくモー娘。黄金期を目の当たりにしてきました。ただ、その嗜好は大きく2つに分けられます。『ASAYAN』の番組公開オーディションやメンバーの入れ替えなどの“仕掛け”が好きな層と、つんく♂プロデュースの音楽世界が好きな層の2タイプです。前者がAKBに流れて、後者は依然としてハロプロを支持、もしくはPerfumeやK-POPに流れたのではないかと推測されます。そこからさらにAKBが新しいファンを取り込んで、今アイドルが大きなムーブメントになっているんじゃないでしょうか。もっとも昨年あたりからはハロプロにも新しいファン層がどんどん増え、勢いを増しています」(島村氏)  エンタメ派とシュート派に二極化する従来のアイドルファン。主義主張が異なるだけに、対立の溝も深まる一方だ。
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「渡辺麻友 鈴木愛理」と検索をかけると両者の歌唱力を比較するサイトがズラッと出てくる。コメントの盛り上がりが印象的だ 

 例えばYouTube上に「鈴木愛理 VS 渡辺麻友」という動画がアップされている。それぞれ℃-ute、AKBで“抜群の歌唱力”と評される鈴木愛理と渡辺麻友のソロ歌唱シーンを並べた動画なのだが……。 「コメント欄ではそれぞれのファンが、『絶対、愛理のが上手い』『いや、まゆゆだ』と論争が繰り広げています。コメントしているのは、アイドルを技術ベースで見がちなハロプロファンのほうが若干多い気もしますが……」(島村氏)  こうした、お互いのファンによるガチ論争に、アイドル事情に詳しいライターの小野田衛氏はこう異を唱える。 「そもそもアイドルとしての“定義”が違うんだから比べること自体がナンセンス。ご存知のとおり、AKBは“親近感”や“育ててあげたい感”がウリだから、『歌がヘタ』はむしろ褒め言葉、敵に塩を送っているようなものです。改めて問いたいのは、℃-uteの矢島舞美が前田敦子みたいなマルチタレント路線で成功して、ファンとして幸せなの? ということです。逆に、ハロプロ勢のパフォーマンスは海外で高い評価を受けているんだから、他のアイドルを目の敵にするんじゃなくて、海外進出を応援するとか、生産的なエールを送ってほしいですね」  奇しくも、ストロングスタイル全盛だった新日からUWF勢が抜け、二極化。「ロープに振って帰ってくるのはおかしい」などとUWFのファンが息巻いていた当時と状況が似ている。大人の見方とすれば、どちらも同じアイドル(プロレス)なのだから、パイの取り合いをするのではなく、共存共栄することが、両者……すなわち業界全体の発展に繫がるという論理だ。  アイドル戦国時代とプロレス多団体時代の親和性を確認したところで、「各アイドルをプロレス団体に例えるなら?」を、記者の見解、両者の意見をもとに設定してみた。 ●AKB48⇒新日本プロレス(‘80年代後半) 特にアントニオ猪木が標榜したストロングスタイルからの変換期。TPG(たけしプロレス軍団)、ストロングマシン1号、2号など、リング外の“仕掛け”が頻発する時期と重なる。ほか関連グループは、自然とU系以外の新日からの派生団体(ジャパンプロレス、ゼロワンなど)に位置づけられる。「指原莉乃の醜聞騒動では、伸び悩むHKT48への“左遷”という帰結策で世間の度肝を抜いたが、スキャンダルをビジネスに結びつける秋元康の手法は、まさに猪木イズムそのものといえるでしょう」(小野田氏)。 ●ハロー!プロジェクト⇒UWF ストロングスタイル時代の新日をモーニング娘。黄金期と重ねるなら、ストロングスタイルのみを抽出したハロプロはUWFといえる。「天才・鞘師里保は佐山聡(初代タイガーマスク)、若干13歳にして佐山の天才性、ハロプロの理念を語れるスポークスマン・工藤遥(モーニング娘。)は前田日明と置き換えても言い過ぎではないでしょう」(小野田氏)。「ひたすら現場(ライブ)主義で他団体と交流しなかった点では、鎖国時代の全日本プロレスと相似している」(島村氏)という意見があったことも付け加えておく。 ●ももいろクローバーZ⇒ハッスル 「ライブでの全力パフォーマンスの説得力はハンパないです」(島村氏)。大規模ライブに至るまでの濃厚なストーリーとライブでの豪華な仕掛けはエンターテインメントプロレスの最右翼・ハッスルと相似する。「バラエティで見せる個々のメンバーの役どころ、ギミックもハッスルに近い。僕の中ではDDTに近いともいえるのですが……これは蛇足かもしれません」(小野田氏) ●ぱすぽ☆⇒FMW “会いにいけるアイドル”として様々な“出会い方”を提供するぱすぽ☆の方針は、新ジャンルとしてアイドル界に新風を吹き込んだ。それは、有刺鉄線、電流爆破と斬新なデスマッチルールを提供したFMWと相似する(斬新性が似通っているだけで、ぱすぽ☆→“邪道”でないことを付け加えておく)。  ほかにも、「東京女子流はUWFというより、Uインターに近い属性」、「地元・仙台を拠点に活動し、地方アイドルブームを牽引するDorothy Little Happyは、みちのくプロレス」、「SUPER☆GiRLSは藤原組……いや、客層の若さからパンクラスか?」など、選定作業は困難を極めた。あくまでも小誌の勝手な推定なので、皆さんそれぞれ、独自の類似形を見つけてほしい。 <取材・文/スギナミ> ※「美少女応援マガジン」と銘打った『Top Yell』は、ライブリポートほか、アイドルたちの本音インタビューが好評。公式ツイッター(http://twitter.com/#!/TopYell) ― ハロプロにみるアイドルとプロレスの親和性【2】 ―
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