萌えの元祖・吾妻ひでおが嘆く!「アグネス・チャンもすっかり敵に…」【後編】

 萌えの元祖と呼ばれながら一時期はホームレス生活、アルコール依存症による入院で執筆活動を中断。しかし、休業時のどん底生活を赤裸々かつ軽妙に綴った「失踪日記」で近年復活を遂げた漫画家・吾妻ひでお。自らを「吾妻ひでお原理主義者」と称する音楽家・菊地成孔によるベストセレクション「ポスト非リア充時代のための吾妻ひでお」(河出書房新社刊、1575円)が現在発売中だ。刊行を記念して6月22日にリブロ池袋コミュニティカレッジで催された、吾妻ひでおと菊地成孔のトークイベントの一部をリポート! ⇒【前編】はこちら https://nikkan-spa.jp/249115 ◆「萌え」を変えたのはピーチ・ジョンが戦犯(菊地) 菊地:「萌えから慈しみが消えた」というお話がありましたが、単純な見立てかもしれないけど、吾妻先生の不在が「萌え」を変えたのではないかと思っているんです。男性の望みに答える女性像から、だんだん女性のほうが積極的になっていって……。 吾妻:「男は関係ない!」というところまできてしまった。 菊地:ピーチ・ジョンは戦犯ですよ(笑)。「自分のためにエロい下着を買う」という文化を根付かせた。フェミニスティックなジェンダーですよね。その変化の間が、吾妻先生のブランクと重なる……その間森で大根掘ったりしてたわけですから(笑)。 吾妻:で、戻ってきたらメイドカフェに「死ね!」って(笑)。 菊地:「死ねばいいのに」と「死ね!」って全然違うんですよね。「死ねばいいのに」っていうのはとても現代的。吾妻先生の不在が「萌えなんて死ね!」にしてしまったのかもしれない。 ◆復活を遂げた吾妻さんのタフネスを伝えたかった(菊地) 菊地:今回の選集では、吾妻先生のタフネスを伝えたいという思いがあったんです。「消えた漫画家」というクリシェがありますけど、音楽の世界でも、一度消えてカムバックした例ってほとんどないんです。だから、吾妻先生の復活には本当に強さを感じて感動した。 吾妻:ホームレスやってたときも、だんだん楽しくなってきちゃって。ガス工事の仕事を始めたときは、肉体労働って楽しいなあ、漫画家って不衛生な仕事だなあと。でも結局、ガス屋の広報誌に漫画描いたりして。 菊地:イマジネーションの力というか、ブランクがあっても戻れるんだ、潰れたら終わりじゃないんだって。それを伝えたくて、僭越ではあるけれども「潰れる寸前」をパッケージしたんです。 吾妻:今後も(吾妻原理主義者として)布教活動に勤しんで、(萌えの)修正主義者と異端者には鉄槌を下すようにお願いします(笑)。 菊地:今は、修正主義者が強いから(笑)。 【吾妻ひでお】 ’50年、北海道生まれ。69年「まんが王」でデビューし、以降次々に不条理ギャグ、SF、美少女漫画の元祖として活躍。ブランクを経て発表した自伝的漫画「失踪日記」で再び注目を集め、復活を遂げる 【菊地成孔】 音楽家、文筆家。’63年生まれ。ジャズに軸足を置きながら、ジャンルレスな音楽活動を展開。「菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール」「菊地成孔ダブ・セクステット」「DCPRG」の3バンドを主宰 取材・文/牧野早菜生
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